第52話
二〇二六年五月八日、金曜日。
昼休み、俺は直属の上司である鬼課長――あぁ、本当の名前は『内山田課長』というのだが、その内山田課長のデスクへと向かった。
「課長、ちょっと良いですか。今度、広島で『パグミーティング』っていうイベントがあるらしいですよ」
俺がスマートフォンの画面を見せると、書類を精査していた内山田課長の険しい表情が、一瞬で固まった。
「パ、パグミーティング……!? なんだそれは!」
「県内のパグとその飼い主が集まる交流会です。アプリコットの帰蝶ちゃんも、お友達がたくさんできるかもしれませんよ」
その瞬間だった。
普段は数字の未達成に雷を落とす鬼上司の目が、まるで遠足前の少年のようにキラキラと輝き出した。
「行く! 俺も行くぞ浅野! 帰蝶に友達を作ってやるんだ!」
大喜びする内山田課長。俺は「じゃあ、忘れないうちに今すぐ申請してくださいね」とサイトの参加フォームを開いて渡し、その場でエントリーを完了させた。職場で上司にオンライン申請を『させた』のは、後にも先にもこれが初めてだろう。
確認したところ、パグミーティングの開催日は「次の週の日曜日」――五月十七日とのことだった。
デスクに戻り、リサさんに『内山田課長も帰蝶ちゃんと一緒に参加決定しました』とLINEを送ると、『ふふ、課長さん可愛いですね! 楽しみです、長政さん』と、キュンとするような返信が返ってきた。
足元には、そんな人間の盛り上がりなど知る由もなく、自室でお留守番中の大福とアズサ。
五月十七日、広島パグミーティング。
内山田課長&帰蝶ちゃんという強力な戦力を加え、俺たちの休日インフラは、かつてないほどのドタバタと熱気に向かって動き出していた。




