第50話
二〇二六年五月六日、水曜日。
ゴールデンウィークが明け、久しぶりの出勤日の朝。
ベッドの中でスマートフォンを開くと、リサさんから『おはようございます! あの……これからはなんて呼べばいいですか?』という、甘酸っぱすぎるメッセージが届いていた。画面を見つめるだけで、ニヤけそうになる頬を抑えるのが大変だ。
俺の下の名前は、『長政』という。
苗字と合わせると「浅野長政」――そう、歴史の教科書に出てくる豊臣五奉行のあの戦国武将と同姓同名なのだ。幼い頃から散々からかわれてきたこともあり、正直自分では少し苦手な名前だった。
だが、恋人になった彼女からの質問だ。少し照れくささを感じながらも『長政、と呼んでもらえると嬉しいです』と返信した。
直後、画面に『長政さん、今日も一日がんばりましょうね!』という返信が届き、俺の心拍数のインフラは朝から一気に上限を突破したのだった。
しかし、幸せな余韻に浸りながらオフィスへ出勤した直後、待ち受けていた相棒・佐藤が開口一番、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて突撃してきた。
「おい浅野! お前、門脇さんと付き合ったんだって? いいじゃねぇか〜!」
「――ぶっ!?」
俺は思わず持っていた缶コーヒーを吹き出しそうになった。
「お前、どこからその情報を手に入れたんだよ!?」
「まぁまぁ、良いじゃねぇか。昨日みなと公園でコタロウの散歩してたら、遠くで良い雰囲気の二人を見かけちゃってさ。……あ、ちなみに俺も報告があるんだ」
「報告……?」
胸を張る佐藤の顔を見返す。佐藤はアイコスを指に挟みながら、フッと気取った笑みを浮かべた。
「俺、実はみきさんと付き合うことになったんだ」
「えぇぇーーーっ!? いつから!?」
オフィスの給湯室の裏で、俺の叫び声が響き渡った。
「いつからって、5月の頭だよ。みきさんの大学のテスト勉強とか卒論の手伝いをしてるうちにさ、ほら、良い関係になっちゃったってわけよ」
あっけらかんと笑う佐藤。
(おいおい……俺が過労で倒れたり、生牡蠣だ宇宙人だとドタバタしていた裏で、お前らはそんな大進展を遂げていたのか……!)
まさかの親友・佐藤と、二階の音大生・みきさんの電撃カップル成立。
ゴールデンウィークが明けた初日。
俺たちの周りの人間関係と恋のインフラは、俺の想像を遥かに超えるスピードで、賑やかで最高に幸せな新時代へと突入していたのだった。




