第48話
バーベキューが終わったその日の夜、ベッドの上でスマートフォンを操作しながら、俺は個人的な「巨大なデータベースの更新」を行っていた。
メッセージのやり取りの中で、ついに知ることができたのだ。
門脇さんの下の名前が、『リサ』ということを。
彼女のフルネームは、門脇リサ。
聞けば、お父様がアメリカ人で、お母様が日本人とのことだった。日本での生活が長いお父様は日本語がペラペラで、現在は語学を活かして通訳の仕事をされているらしい。
先日のドライブで見せてくれた華やかなフリルの私服や、どこか洗練された品のある佇まい。そのルーツを知り、俺の胸の奥でストンと納得のいく音が響いた。
そして何より驚いたのは、年齢だった。
彼女は、俺の一つ年上――頼れる「一つ年上の先輩」だったのだ。
(門脇……リサさん……)
静かな部屋で、心の中でそっとその名前を呟いてみる。
これまでずっと「経理部の門脇さん」と呼び、どこか壁を感じていた存在が、LINEの画面越しに「リサさん」という一人の等身大の女性として、ぐっと身近に迫ってくる。その事実に、俺の心拍数は大福の「おかえりスピン」並みの速度で跳ね上がっていた。
ふと視線を落とすと、足元では「リサ」というお上品な響きとは程遠い我が家の怪獣・大福が、ヘソを天井に向けて「フゥ……フゥ……」と呑気なイビキをかいている。アズサもその横で丸くなっていた。
「おい大福。門脇さんはな、リサさんっていうんだぞ。一つ年上のお姉さんだ」
語りかけると、大福は耳をピクッと動かしただけで、すぐまた深いイビキの渦へと戻っていった。
ゴールデンウィークの夜。
交換されるメッセージの行間に、一文字ずつ刻まれていく彼女の素顔。俺たちの恋と日常のインフラは、また一つ、かけがえのない大切な情報を蓄えていくのだった。




