第47話
二〇二六年五月二日、土曜日。
ゴールデンウィーク休暇の二日目。
初夏の陽気が心地よい青空の下、我がアパートの屋上にて、大家さん主催の『住人慰労・屋上バーベキュー』が開催された。
ちなみに、同僚の佐藤は実家に帰省するため今回は不参加。あの賑やかな男がいないのは少し寂しい気もしたが、屋上に炭火の香ばしい煙とジューシーなお肉の匂いが立ち込めると、そんな感慨は一瞬で吹き飛んだ。
「フゴッ! フゴフゴッ!」
『バウッ! バウッ!』
お肉の匂いを察知した瞬間、我が家の大福と、二階のみきさんの愛犬・ビーグルのアリアが、興奮のあまり狂ったコンパスのようにぐるぐると同時旋回を始めた。肉の煙に向かって猛烈なダンスを捧げる二匹。その横では、門脇さんのチワワ・ちまきちゃんと、我が家のアズサが静かに足元へ避難している。
「はいはい、みんなの分もちゃんと用意してあるわよ〜!」
大家さんの声とともに、犬たちに振る舞われたのは、特製の大量の茹で「ささみ」だった。
もちろん、大福の皿はあの迷路状の『早食い防止皿』だ。前回の「食いしん坊の会」でアリアに完敗を喫した大福にとって、今日はホームグラウンドであるアパート屋上での「雪辱の第二戦」だった。
「よーい、スタート!」
掛け声とともに、大福の猛烈な吸引が始まった。
溝に鼻先をねじ込み、計算された角度でささみを引っ張り出す大福。前回の敗北を経て、彼のささみ攻略インフラは格段に進化していた。……そう、俺も信じていたのだ。
だが、隣の早食い女王・アリアは次元が違った。
防止皿の溝など意に介さず、圧倒的な顎の力とブルドーザー並みの吸引スピードで、一瞬のうちにささみを丸呑みしていく。
「アリアちゃん、完食〜!」
大家さんの歓声が響いた時、大福の皿にはまだ半分以上のささみが溝の奥に残されていた。
「フ……ゴォォォォッ!!」
二度目の敗北を悟った大福の、魂を絞り出すような絶叫が5月の青空に響き渡る。
顔を上げれば、すでに自分の分を平らげたアリアが「それ、手伝おうか?」と言いたげに大福の皿に鼻を近づけていた。俺が慌てて制止する横で、大福は「なぜ勝てないんだ……」と絶望の表情で屋上のコンクリートにアゴを叩きつけ、不貞寝を決め込んでいた。
「ふふ、大福くん、本当に悔しそうですね」
隣で門脇さんが、焼き立てのお肉を頬張りながらクスクスと楽しそうに笑っている。
青空の下で立ち上る香ばしい煙と、住人たちの賑やかな歓声。
そして、またしても女王に敗れ、敗北の味を噛み締めながらささみをすする大福の哀愁漂う背中。
GWの二日目。我がアパートの温かくも可笑しな日常のインフラは、5月の風に乗って、どこまでも爽やかに広がっていくのだった。




