第46話
二〇二六年五月一日、金曜日。
待ちに待ったゴールデンウィーク休暇の初日。
俺は「二人と三匹」がゆったり乗れるよう、カーシェアで少し大きめのコンパクトカーを借りてアパートを出発した。
助手席に座るのは、明るい春色の私服に身を包んだ門脇さんだ。車内にふんわりと広がる彼女のほのかな香水の甘い匂いが、俺の鼻腔をくすぐり、運転握るハンドル越しに緊張と高揚感が伝わってくる。
後部座席のドライブシートには、我が家の大福とアズサ、そしてスリングから乗り出したちまきちゃんの三匹が並んで座っていた。車窓から流れる景色に興味津々で、「フゴッ、フゴッ」と鼻息を荒くするパグ姉弟と、ちょこんと首を傾げるちまきちゃん。最高のドライブのスタートだ。
明日の五月二日には、アパートの大家さん主催で住人全員が集まる「屋上バーベキュー」が控えているため、今日の目的地は日帰りで楽しめる絶景スポット――広島市街を一望できる『竜王公園』に決めた。
高台にある公園に到着すると、5月の爽やかな風とともに、眩しいほどの新緑と眼下に広がる広島の街並みが俺たちを迎えてくれた。
「すごい景色……! 浅野さん、気持ちいいですね!」
車を降り、風に髪をなびかせながら微笑む門脇さん。
俺は当初、広島名物の「むさしの弁当」でも買って芝生で食べようかと考えていたのだが、公園のベンチに腰を下ろした瞬間、門脇さんが「実は……これ、作ってきたんです」と、可愛らしい巾着袋から二段重ねのお弁当箱を取り出した。
「えっ……門脇さんがお弁当を!?」
「はい。浅野さん、最近まで退院したばかりでしたし、感謝の気持ちを込めて……お口に合うといいのですが」
少し照れくさそうに蓋を開けてくれたお弁当には、丁寧に握られたおむすびや、色鮮やかな卵焼き、唐揚げがぎっしりと詰まっていた。
一口食べた瞬間、ジュワッと広がる優しい出汁の味。
「……めちゃくちゃ美味しいです、門脇さん」
「本当ですか? 良かった……!」
頬を緩ませる彼女の笑顔を見つめながら、俺の心はどんな高級料理よりも満たされていた。
視線を芝生へ移すと、リードを伸ばした大福とアズサ、そしてちまきちゃんが、5月の青空の下で楽しそうにドタバタと走り回っている。
新緑の風、手作りのお弁当の温もり、そして愛おしい仲間たちの歓声。
五月の始まりの特別な一日。俺たちの温かなインフラは、どこまでもどこまでも、優しく広がっていくのだった。




