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残しちゃいけないもの

 地上へ戻った瞬間、救助された聖女のひとりが泣き崩れた。


 カイルの部隊の聖女が、その背を抱く。血と灰に汚れた白い髪。震える肩。戦場で兵器のように扱われる彼女たちも、泣く時はただの少女だった。


 俺はそれを見て、魔導盤を閉じた。


「カイル。生存者を先に王都へ送れ」


「ああ。君は?」


「監視塔を焼く。ここはもう祈りの場所じゃない」


 聖痕を抜き取る装置も、反転した魔導銃も、血に濡れた鉄台も、残してはいけない。


 ユアが静かに祈りを捧げた。レイナが聖銀剣で床に聖句を刻み、リリスが炸裂弾を装填する。ノエルは塔の最上部へ狙撃銃を向け、崩落の角度を測っていた。


「司令官」


 リリスが俺を見る。


「撃っていい?」


「ああ。全部、終わらせろ」


 青白い弾丸が放たれた。


 塔の内部に刻まれた魔法陣が連鎖して砕け、黒い火が白い炎に呑まれていく。監視塔は悲鳴のような音を立てながら崩れ落ちた。


 灰雪が舞う。


 その中で、レイナが俺の手を握った。


「司令官。寒いですか」


「少しな」


「では、私が温めます」


 リリスがすぐ反応した。


「あ、ずるい。あたしも」


「司令官の右手は私が確保しています」


「じゃあ左手!」


 ユアが当然のように俺の背中へ祈祷布を掛ける。


「お二人とも、司令官は病み上がりです。取り合うなら、まず治癒の順番を決めてください」


 ノエルが微笑んだ。


「では、わたしは名前を呼ぶ順番の予約を」


「まだ教えない」


「残念です。ですが、待つ時間も愛おしいので」


 重い。寒さより重い。


 けれど、彼女たちの手は温かかった。


 カイルが少し離れた場所で苦笑する。


「君は大変だな」


「分かってくれるか」


「ああ。だが、少し羨ましい」


 俺は返事をしなかった。


 こんな重さを羨むなんて、物好きだと思う。だが、たぶん俺ももう、この重さがない場所へ戻れない。


 燃える監視塔を背に、俺は通信石を握る。


「全員、帰還する」


 四人の声が重なった。


「了解、司令官」


 その呼び名は、まだ俺の名前ではない。


 けれど今は、それでいい。


 いつか俺が自分の口で名を渡す日まで、彼女たちは俺を司令官と呼び続ける。


 祈りより甘く、呪いより深く。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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