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パーティを追放されたのでヒーラーが魔術師とうそをつきました  作者: Miris
うそを捨てる日

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第46話 怒っていても隣に立つ


 南門広場で、神殿の使者はミナの前に立った。


 毒霧は少し薄くなっている。


 それでも、救護線にはまだ赤い布の患者がいた。


「ミナ・リースさん。あなたには、ただちに治癒式の使用を停止していただきます」


 丁寧な声だった。


 だからこそ、冷たい。


 ミナは反論できなかった。


 処分は決まっていない。


 無認可治癒。


 職業詐称。


 神殿の許可を受けない式改造。


 言葉を並べれば、止められる理由はいくらでもある。


 ミナは杖を握りしめた。


 手を離せば楽になるかもしれない。


 もう十分にやった、と誰かが言ってくれるかもしれない。


 でも、救護線の向こうで、患者が浅く息をしている。


 楽になるのは、ミナだけだ。


「私が止まったら」


 声がかすれた。


 使者は首を横に振る。


「神殿の治療師が対応します」


「人数が足りません」


「それでも、規定に従うべきです」


 正しい。


 正しい言葉は、時々とても重い。


 ミナは次の言葉を探した。


 見つからない。


 その時、セラさんが一歩前へ出た。


「私は」


 声が少し震えていた。


 ミナは顔を上げる。


 セラさんは剣の柄を握っていない。両手をまっすぐ下ろし、救護線と神殿の使者の間に立っていた。


「私は、ミナさんに嘘をつかれて怒っています」


 胸が痛んだ。


 ここで。


 この場で。


 その言葉を聞くのは、やっぱり痛い。


 でも、セラさんは目を逸らさなかった。


「でも、今この場でミナさんの合図を止めたら、人が死にます」


 広場が静かになる。


「私は、合図を聞きます」


 その言葉は、許しではなかった。


 ミナにはわかる。


 セラさんはまだ傷ついている。


 全部平気になったわけではない。


 それでも、自分の意思で隣に立つと言ってくれた。


 ミナの目の奥が熱くなる。


 今は泣くな。


 泣く場面ではない。


 ******


 リタさんが肩をすくめた。


「あたしも、嘘は嫌い」


 軽い声。


 でも、目は笑っていない。


「でも、使える目を塞ぐ趣味はないよ。止めるなら、代わりに毒の入り方を見られる人を連れてきて」


 神殿の使者が眉を寄せる。


「現場判断を、冒険者が決めることでは」


「じゃあ、現場にいる治療師が決めて。あたしらはその指示で動くから」


 リタさんはセヴラン司祭を見る。


 セヴラン司祭は、すぐには答えなかった。


 ガイさんが一歩前へ出る。


 床ではない。南門広場の石畳だ。


 それでも、重い盾が小さく鳴った。


「ミナを下げるなら、代わりに誰が見る」


 短い。


 ただ、それだけ。


 だが、誰も答えられなかった。


 見られる人がいないから、ミナはここにいる。


 無認可だから危険だ。


 でも、止めれば危険だ。


 どちらも本当だった。


 ノエルさんが記録紙を閉じる。


「私は魔術師組合の鑑定者として証言します。現時点で、ミナ・リースさんの処置停止は患者の重症化を増やす可能性が高い」


「あなたも無認可治癒を認めるのですか」


「認めるとは言っていません。止める危険を記録しているだけです」


 相変わらず、刺す言い方だ。


 でも今は、その刺がありがたかった。


 セヴラン司祭がようやく口を開く。


「責任は、私が一時的に持ちます」


 神殿の使者が息を呑む。


「司祭」


「現場を止めるな」


 低い声だった。


 怒鳴っていない。


 それでも、広場の空気が動いた。


「記録はすべて残す。処分も協議する。ですが、今この場で救護線を止めることは認めません」


 使者は唇を引き結んだ。


 納得していない。


 当然だ。


 セヴラン司祭も、ミナを許したわけではない。


 ただ、今は止めない。


 その選択をした。


 ミナは小さく頭を下げた。


「続けます」


「続けなさい」


 セヴラン司祭が言う。


 その声に、重い責任が乗っていた。


 ミナはすぐ救護線へ戻った。


 赤い布の患者が一人、咳き込みながら体を起こそうとしている。神殿の使者とのやり取りを聞いて、不安になったのだろう。


「動かないでください」


「あんた、止められるんじゃなかったのか」


 患者の声には怯えが混じっていた。


 ミナは手を止めなかった。


「今は続けます。だから、あなたも息を続けてください」


「変な言い方だな」


「よく言われます」


 リタさんが横から言う。


「変なのは公式認定されかけてるからね」


「されていません」


「まだね」


 患者が苦しいのに少し笑った。


 その笑いで、胸の強張りが少しほどける。ミナは呼吸の拍を拾い、毒が奥へ進む前に流れを押さえた。


 見られている。


 それでも、もう手は震えなかった。


 ******


 救護は夕方まで続いた。


 毒霧は少しずつ薄くなり、水路口には仮の封鎖布が何重にも張られた。リタさんとノエルさんが風の流れを見て、魔術師たちに弱い風だけを使わせる。ガイさんとバルドは、重い蓋を音を立てないよう押さえた。


 セラさんは、最後まで赤い布と黄色い布を間違えなかった。


 ミナは何度も治癒式を使った。


 何度も、見られた。


 何度も、記録された。


 そのたびに補助魔術師の木札が、鞄の中で重くなる気がした。


 救護線の端で、少しだけ息をついた時、ミナは鞄へ手を伸ばした。


 木札に触れる。


 補助魔術師、ミナ・リース。


 最初は、この文字が仕事をくれた。


 居場所もくれた。


 けれど、今は違う。


 この文字で隠れようとするたび、救った人の前で嘘を重ねることになる。


 セラさんの言葉が胸に残っている。


 怒っています。


 でも、合図を聞きます。


 ミナは木札から手を離した。


 もう、その名前では誰も守れない。


 ******


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