表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パーティを追放されたのでヒーラーが魔術師とうそをつきました  作者: Miris
追放した側が、失ったものに気づく

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/52

第33話 助けたことと嘘は別


 その日の夕方、ミナたち四人はギルドの小会議室にいた。


 窓の外では、夕焼けが石畳を赤く染めている。


 けれど室内は、昼よりずっと冷たく感じた。


 机を挟んで、ガイさん、リタさん、セラさんが座っている。ミナは向かい側。まるで依頼前の作戦会議みたいな配置だった。


 でも、今日は作戦ではない。


 説明。


 謝罪。


 信頼を壊した後の、最初の言葉。


 ミナは膝の上で手を握った。


「まず、謝らせてください」


 声は、少し震えた。


「私は、ヒーラーです。ルシェルに来た時、補助魔術師だと嘘をついて登録しました」


 セラさんの肩が小さく動く。


 リタさんは頬杖をついているが、目は逸らさない。


 ガイさんは腕を組んだまま黙っている。


 ミナは続けた。


「前の街で、私は紅蓮の剣から追放されました。理由は、攻撃できないこと、討伐数に貢献していないこと、回復が必要なら神殿で足りると言われたことです」


 言葉にすると、あの日の酒場の匂いまで戻ってくる。


 パンとスープ。


 木のテーブル。


 通路側の端の席。


「ヒーラーとして仕事を探しても、低評価が残っていて、安い補助仕事しかありませんでした。だから、隣街で、補助魔術師の募集を見た時に」


 ミナは一度、喉を鳴らした。


「嘘をつきました」


 短い言葉だった。


 でも、部屋の中では重かった。


 セラさんが顔を上げる。


「最初から、ですか」


「はい」


「私たちと会った時から」


「はい」


 セラさんの唇が少し震えた。


「毒蛾の時も、毒針の時も、湿り森の救助も、毒沼も」


「はい」


 ミナは目を伏せないようにした。


 ここで逃げたら、また同じだ。


「全部、治癒式を土台にしていました。支援や異常対応に見えるように使っていました。でも、嘘でした」


 セラさんは何も言わなかった。


 その沈黙が痛い。


 リタさんが静かに言った。


「あたし、嘘っぽいのは気づいてた」


「はい」


「でも、言うまで待ってた」


「はい」


「待たせたのは、あんただよ」


 ミナの胸に刺さる。


 怒鳴られるより、ずっと痛い。


「すみません」


「謝罪は受け取る。でも、それで終わりじゃない」


 リタさんの声は軽くない。


「あたしたちは、何を知らないまま戦ってたの?」


 ガイさんが続けた。


 低い声。


「俺が知りたいのも、それだ」


 ミナはガイさんを見る。


 ガイさんは怒っている。けれど、怒り方がグレンさんとは違う。相手を押し潰すためではなく、戦場で必要なことを確認するための怒り。


「ミナが治癒師だったこと自体を責めているわけじゃない。助けられたことも事実だ」


 少し間を置いて、ガイさんは言った。


「だが、俺たちは、お前が何をしているか知らなかった。どこまでできるかも、どこから危険かも知らなかった」


 ミナは頷く。


「はい」


「それは、戦場では怖い」


 その言葉に、ミナは息を止めた。


 怖い。


 そうだ。


 ミナは、自分が怒られることばかり怖がっていた。


 でも、ガイさんたちは別の怖さの中にいたのだ。


 知らないまま命を預けていた怖さ。


「私は、自分が責められることばかり考えていました」


 ミナは言った。


「ヒーラーだと知られたら、要らないと言われるんじゃないか。嘘つきだと言われるんじゃないか。そういうことばかり」


 セラさんが小さく息を吸う。


「でも、本当は、みなさんに判断させていませんでした」


 認めると、胸が痛い。


 痛いけれど、必要な痛みだった。


「すみません」


 ミナは深く頭を下げた。


 ******


 しばらく誰も話さなかった。


 廊下を誰かが歩く音が聞こえる。遠い。


 やがて、セラさんが口を開いた。


「私、助けられました」


 ミナは顔を上げる。


 セラさんの目は赤くなっていた。でも、涙はこぼれていない。


「毒針の時も、毒蛾の時も、湿地でも。ミナさんが止めてくれたから、生きています。それは本当です」


「はい」


「でも」


 セラさんの声が震えた。


「嘘をつかれていたことも、本当です」


 ミナは何も言えなかった。


 セラさんは続ける。


「私、ミナさんの支援がすごいと思っていました。補助魔術師なのに、すごいって。私も、ちゃんと聞けば強くなれるって思っていました」


 そこで一度、言葉が止まる。


「でも、違ったんですね。違ったというか、全部違うわけじゃないのかもしれないけど、私が思っていたものとは違った」


 混乱している。


 その混乱を、セラさんは必死に言葉にしている。


 ミナは、黙って聞くしかなかった。


「助けてくれたことは、ありがとうって思っています。でも、今すぐ平気ですとは言えません」


「はい」


「ごめんなさい」


「セラさんが謝ることでは」


「あります」


 セラさんは首を横に振った。


「私、今、ちょっと怒っています。怒っているのに、助けてもらったから怒っちゃいけない気がして。それも嫌で」


 まっすぐな言葉だった。


 痛いけれど、きれいだった。


 リタさんが小さく頷く。


「助けたことと嘘は別。そこ、混ぜるとお互いしんどい」


 ミナはその言葉を胸の中で繰り返した。


 助けたことと嘘は別。


 救えたから、嘘が消えるわけではない。


 嘘をついたから、救ったことが消えるわけでもない。


 どちらも残る。


 両方、持たなければならない。


 ガイさんが椅子の背から体を起こした。


「謝罪は聞いた」


 ミナは背筋を伸ばす。


「はい」


「次は、何ができて何が危険なのかを話せ」


「今、ですか」


「今すぐ全部は無理だろう。だが、曖昧なまま次の依頼には行けない」


 ガイさんは真剣だった。


「俺は盾役だ。前に立つ。ミナが俺の体に何をするのか、何をしないのか、知っておく必要がある」


 リタさんも頷く。


「あたしも。毒とか罠とか、ミナちゃんの見方とあたしの見方を合わせたい」


 セラさんは少し迷ってから、小さく言った。


「私も、知りたいです。怖いけど」


 ミナの胸が詰まる。


 許されたわけではない。


 それでも、聞こうとしてくれている。


「話します」


 ミナは頷いた。


「ただ、私だけでは、うまく整理できないかもしれません」


「ノエルさん?」


 リタさんがすぐに言う。


 ミナは少し驚いた。


「わかりますか」


「あの人、こういう面倒な整理が好きそう」


「好きではないと思います」


「得意ではあるでしょ」


 それは、たぶんそうだ。


 ミナは小さく頷いた。


「お願いしてみます」


 会議室の空気は、まだ重い。


 でも、完全に閉じてはいなかった。


 ほんの少しだけ、次に進む隙間があった。


 ******


この話が良かった、参考になったと思ったらお好きな数だけつけてください!

また見たい!と思ったらブックマークもお願いします!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ