25. 良い結果を出す為には回り道も必要ですわ
あれからというもの私は王城の一角にお部屋を賜り、日々妃教育に勤しんでおりますの。
「タチアナ様、素晴らしいですわ!まだ妃教育を初めて間がありませんのに、最早ほとんどを履修なさっていらっしゃる。」
幸いなことに、宗教や祭祀、王室制度、王室法制、儀式、行事及び王室典範についてはブーランジェ王国と内容があまり変わりなかったこともあり、すぐに履修することができました。
乗馬、音楽、絵画については既にブーランジェ王国で『それぞれで食べていけるほどのレベル』を求められておりましたので今では人に教えられる程度にはできるようになっております。
礼儀作法と近隣諸国の言語についてはイライザとしてヒューバート皇太子殿下の婚約者と内定したときには既に身につけていることが第一条件であり、生家である公爵家では当然の教育内容でしたので問題ありませんでしたわ。
「しかしポンパード夫人。まだ『ラガルド王国についての総論』『ラガルド王国の歴史』についてはあまり自信がありませんのよ。」
「そうだとしても、通常の妃教育でかかる期間のまだ三分の一しか経っていませんよ。素晴らしいですわ。まるで既に学んでいらしたように優秀な御令嬢ですわね。」
そこまで褒めていただくと、既に過去に学んでいた私としてはどこか罪悪感を抱えましたけれどそこは曖昧な微笑みでかわしましたのよ。
「それではタチアナ様、今日はもう終わりにいたしましょう。たまには皇太子殿下とお茶のお時間を持つことも大切ですわ。ほら、殿下があの衝立の後ろでお待ちになっていますよ。」
急いで衝立の方へ視線を向けましたら、皇太子殿下が少しはにかんだ表情で衝立の後ろから出てこられました。
「いや、タチアナの妃教育の進行具合が気になって……。ポンパード夫人には敵わないな。」
「当たり前です。私は幼かったセドリック殿下の教育係でもあったのですからね。殿下、心配なさらなくてもタチアナ様は殿下の幼い頃よりも良くお出来になる方ですよ。」
「ポンパード夫人!そのようなことはございませんわ。お戯れはおやめくださいませ。」
慌てて私が夫人へ声を掛けて、殿下に頭を下げると目を細めて優しい微笑みをたたえた殿下はお茶でもしようとお誘いになりました。
「タチアナ、妃教育は随分順調のようだな。ポンパード夫人が人を褒めることなど滅多にないことだ。」
「そうなのでしょうか?夫人はとてもよくしてくださいますわ。」
「それは良かった。まだしばらくは続くだろうが無理はしないように。」
「いつもありがとう存じます。」
美しい薔薇が咲き乱れる王城の庭の一角、優雅な形のガゼボで皇太子殿下と久々にゆったりとしたお茶の時間を過ごしております。
最近皇太子殿下もお忙しいようで、時々お疲れの様子も見られますから私は心配しておりましたの。
「殿下、何か困りごとでも?」
「ああ、そんなに分かりやすかったか……。実は、隣国ブーランジェ王国のことなんだが……。」
皇太子殿下のお話になることには、現国王陛下は隣国であるブーランジェ王国との国交を断絶までもいかないまでも、積極的に交流をすることはなかったとのこと。
しかし皇太子殿下は、これからの両国は積極的な国交を図り友好国として存在していきたいとお話されたのです。
「知っての通り、沿岸国の我がラガルド王国は木材資源や鉱石など陸の資源が年々減少している状況で、海を渡った国々からの輸入に頼っているんだ。しかしそれでは価格が高く、市井の民の生活は苦しくなる。対する隣国ブーランジェ王国は森の多い国で陸の資源も豊富だ。長年お互いの国は国力が拮抗しており、お互いに牽制しあっている状況だが、何とかブーランジェ王国との外交を友好的にすすめて国境を開き、輸出入を簡単にできるようにしたい。」
皇太子殿下は貴族の暮らしよりも市井の民の暮らしを心配なさっておられるのね。
貴族よりも市井の民の方が、少しの価格変動によって生活が大きく変わりますもの。
「殿下、私が以前毛皮でケープを仕立てたら貴族の間で話題になり、欲しいとおっしゃる方が多くいらっしゃいましたの。」
「タチアナ、それが?」
「毛皮はブーランジェ王国ではポピュラーな装飾品で、ラガルド王国ほど高価なものでもありませんわ。まずは毛皮をブーランジェ王国から仕入れるところから始めてはどうでしょうか?」
「しかし、民が一番困っているのは木材や鉱石などの資源だ。なぜ毛皮なんだ?」
そうですわ、木材などの資源の方が現実味がある輸入品ですけれど……
「それでも、木材などの資源の方が現実味のある輸入品ですが、国交を持ってなかった国同士で初めから輸出入をする際には、きっと両国ともに反対をする勢力が現れるはずです。そしてそれらの勢力は貴族でしょう。ですから、まずは貴族を満足させる外交から始めるのです。」
「なるほど……。すぐに市井の民のために動きたいところではあるが、確かに新しい試みになんでも反対したがる勢力は存在するものだな。」
「毛皮を欲しがるのは余裕がある貴族です。そしてブーランジェ王国で毛皮を売っているのは貴族が経営する商会が多いのですよ。」
まずは発言力のある貴族という人々からこの国交の利点を実感させなければいけませんわ。
そして国交が軌道に乗った暁には、『資源』という国にとっても重要なもののやり取りが行えるようになるのではないでしょうか。
皇太子殿下に私が自らの考えをお話しましたところ、随分と表情が明るくなられました。
「タチアナの言う通りだ。良い結果を出す為に回り道が必要なこともあるだろう。」




