24. 私は本当に果報者でございます
初日の妃教育を終えて皇太子殿下自ら伯爵邸まで送ってくださり、今後は王城の一角で正式な皇太子殿下の婚約者として妃教育をしながら過ごすことになりましたの。
それ自体はブーランジェ王国での生活と何ら変わりはかったので、特に抵抗はありませんでしたわ。
「タチアナ、本当に今日は疲れただろう?初日から大変だったな。あまり無理をしないように。」
「殿下、本当に大丈夫ですわ。」
「それでも、私は心配なんだ。妃教育というものは私たち王族と違って、後から詰め込むように学ばされるものだからどうしても無理が出てくる。タチアナならば大丈夫と思う反面、やはり皇太子妃は嫌だと言われたらと不安になるんだ。」
他の皆様の前で見せる皇太子殿下と、私の前だけで見せる皇太子殿下の表情は随分と違うのです。
眉を下げて不安げに見つめる混じった彩りの瞳は、とてもお可愛らしいこと。
「殿下、本当に私は幸せですのよ。きっとやり遂げてみせますから安心なさって。」
殿下を伯爵邸から送り出し、流石に身体の疲れもあった私はアンに入浴の支度をお願いしましたの。
「お嬢様、市井で今アルバン様が噂になってるんですよ。」
「アルバン様が?どのような噂なの?」
「アルバン様が変態的嗜好の持ち主で、婚約者であったお嬢様を大変困らせていたと。それを救ったのがお嬢様を密かに愛していた皇太子殿下で、皇太子殿下がアルバン様の行いを断罪しその後の婚約破棄。それによってお二人は誠の愛で結ばれたと。」
それはアルバン様の噂というより……私とアルバン様の婚約破棄騒動の、何故か真実に近いもので。それに付随して皇太子殿下のお話が誇張されているのね。
「どうしてそのような噂が流れているのかしら?」
「どうやら一部で書籍化もしているそうですよ。」
「書籍化ですって!?」
アンによくよく聞くと、とある出版社から出ている本に伯爵令息と伯爵令嬢の話として載っているそうなんですの。
「民たちはお嬢様にとても同情的で、アルバン様は変態令息として笑われているのです。」
アンもつい笑いを堪えられない様子で吹き出すのですから、市井の民がアルバン様のことをどういうふうに捉えているのかよく分かりますわ。
「どなたかの意図を感じますわ……。」
……きっとこのようなことをなさるのはアルバン様の秘密をご存知の方、……マルグリット様ですわね。
マルグリット様はアルバン様に並々ならぬお怒りの気持ちをお持ちでしたから。
「おそらく侯爵令息のアルバン様と婚約破棄してすぐに皇太子殿下と婚約をした私のことを色々口さがなくおっしゃる方たちもいらっしゃいますから。その方たちへのメッセージなのでしょう。」
あの美しくも苛烈なお姉様ならやりかねませんわ。
社交会で力を持つマルグリット様が私と親しくしてくださったり、私の毛皮のケープを褒めてくださった御令嬢方、アルバン様の態度にお怒りになっていた御令嬢方のお陰で、私は婚約破棄後も社交会で爪弾きになることもなく過ごせております。
「私は皆様に助けられて、本当に果報者ですこと。」




