18. 仮面舞踏会で不埒な真似をなさる方はお断りしたいですわね
「タチアナ、最近俺が夜会やサロンに誘っても断り続けているが一体どういうつもりだ?ふざけるなよ。」
出ましたわ。アルバン様の『ふざけるな』。
「申し訳ございません。近頃はカスペール公爵夫人マルグリット様に個人的なお茶会へお誘いして頂くことが多く、他の御令嬢からのお誘いも増えたのでなかなかアルバン様と同伴の社交に参加できないのです。」
アルバン様は私の話を聞いて、お相手が元王女様の公爵夫人ということもありそれ以上は言葉にしませんでしたの。
「まあいい。今日の舞踏会には久しぶりにお前と話したがっている紳士が多くいるからな。」
そう言ってアルバン様がニヤリと笑ったように見えて、本当にこの方のことを生理的に無理だと感じてしまったのは否めませんわ。
「分かりました。それでアルバン様が宜しいのでしたら。」
「当然だ。俺の性癖を知っているだろう。今日も頼んだぞ。」
なんだかもうこのお気立てに難がおありな方には私もウンザリしてきましたの。
今日の夜会はベニシュ伯爵家で開かれるもので、特殊な舞踏会なんですのよ。
思い思いの仮面や鬘を付けて身分や素性を隠し、ダンスをしたり交流を図るのです。
私はたとえ仮面を付けてもウェーブがかったピンクブロンドの髪とラベンダーの瞳が目立ってしまいますから、鬘を付けようとしましたのにアルバン様がお許しになりませんでしたの。
金髪でクルクルとした癖っ毛のアルバン様も仮面を付けたとしてもすぐに分かってしまいますわ。
参加者の中で私たちだけが、仮面をつけてもタチアナとアルバン様だということが丸わかりの状態の方が寝取られ願望が強いアルバン様には都合が良いのでしょうね。
「穢れない白の仮面の御令嬢。宜しければ私とダンスを。」
青い仮面を付けた殿方が、私とアルバン様のところへ近寄り私にダンスを申し込みましたの。
私が隣のアルバン様の方を見上げますと、行ってこいというように目線を動かされましたわ。
「はい。」
青い仮面の殿方にエスコートされて、皆が踊っているホールの方へと近づいていきましたの。
そして新たな曲の始まりになるとダンスが始まりました。
青い仮面の殿方はやたらと身体を密着してきたり、褒め言葉ではありますが言葉を顔の近くまで寄ってお話されるので、私はなんだか気分が悪くなってまいりましたわ。
仮面舞踏会とは自らの素性を隠すので羽目を外しやすいとは聞いておりましたが、普段の舞踏会よりも身体を密着したダンスは本当に不快でしたのよ。
やっと曲が終わり、やはり壁際からこちらを見ているアルバン様の方へとエスコートされている時に目の前に黒の仮面を付けた殿方が立ちはだかりましたの。
「美しい仮面の御令嬢、どうか私に貴女との時間をお与えください。」
この艶やかなブルーブラックの髪色と色彩の混じり合った神秘的な瞳の色、そしてこの声は皇太子殿下ではありませんか。
その髪色と瞳の色は、私とアルバン様と同じく素性を隠すつもりはないようで。
隣でエスコートしてくださっていた殿方も相手が殿下だとお気づきになったようですわ。
「私の方はお気になさらず。」
青の仮面の殿方は、そう言ってエスコートをしていた手を離しそそくさとその場を離れて行かれましたのよ。
「ダンスでお疲れのようですから、テラスで休憩いたしませんか?」
「はい。」
私と黒の仮面を付けた皇太子殿下はカーテンの向こうのテラスへと場所を変えましたの。
「美しい瞳の紳士様、お声をかけていただき感謝いたします。」
「今日、こちらへ参加されると聞いてね。遠くから見守っていたんだが、先程の不埒なダンスを見ていてどうにも我慢出来なくなったのでつい貴女を攫ってしまった。」
「まあ、そうでしたの。とても困っておりましたから助かりましたわ。」
お互い仮面をつけていても、髪色も瞳の色も普段と変わらないお色味ですからこの様な環境で気を張り詰めていた私は、どこかホッといたしましたの。




