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19. 私は私の生を全うしたいのですわ


 殿下はマルグリット様から私のことをどうにかする様に言われて、わざわざこのようなところまでいらっしゃって見守ってくださっていたのですわね。


 私はマルグリット様にも、そんな姉君に頭の上がらない殿下にもとても感謝しております。

 そして、同時に胸の辺りが温かくなりましたの。


――シャッ……!


 テラスの入り口のカーテンが勢いよく開きましたら、突然憤怒した様子で拳を震わせたアルバン様が現れましたわ。


「何をしている?」


 私は殿下にご迷惑をかけてはならないと判断し、挨拶をしてその場をアルバン様と離れようと考えましたの。


「この御令嬢は貴殿には不似合いだ。」


 突然殿下がアルバン様へ投げかけた言葉によって、その場の空気が凍りついた気がいたしました。


「突然、何ですか?」


 アルバン様も、黒の仮面を付けた殿下の正体に気づいてらっしゃるのでしょう。

 一瞬怯んだ様子を見せましたが、怒りを抑えきれないご様子ですの。

 努めて冷静に返答なさいましたが、握られた拳は震えたままなのですわ。


「貴殿が御令嬢を蔑ろにするところをこれ以上見ていられない。この美しく聡明な御令嬢は貴殿がこのように扱って良い存在ではないのだから。」

「それで、どうなさるおつもりですか?」

「もう御令嬢を貴殿の自己満足から解放して差し上げるんだ。」


 まさか私が皇太子殿下とマルグリット様を通じて交流を果たしていたなどと思いもよらなかったでしょうアルバン様は、性癖のことを知られているとは露とも知らず、何故そのようなことを言われるのかと言った疑問の表情をお浮かべになってらっしゃいます。


「この令嬢は俺のことを大層慕っているのです。いくら周囲から何を言われようと、()()()()()()()()()()()()()()()ですよ。」

「なるほど。それもそうだな。」


 三人だけが存在するこのテラスという空間で、おもむろに黒の仮面を外された皇太子殿下は、藍色に輝く髪を風に靡かせ、神秘的なアースアイで私とアルバン様を見つめておられます。


「アルバン、それではタチアナ嬢に決めて頂こうではないか。」


 風格ある皇太子殿下が、アルバン様の方を見つめておっしゃいましたの。


「何を……。」


 アルバン様は、仮面舞踏会の場で皇太子殿下が仮面を外したことと、繰り広げられた会話の内容に動揺なさっているご様子。


()()()()()()()()()()()()()()()なのであれば、今ここで……この国の皇太子である私の前でタチアナ嬢の意思を確認しようではないか。」


 挑むような顔つきをなさった殿下、まるで恐ろしく美形の悪役のようですわ。


「いいでしょう。殿下がそこまでおっしゃるなら……。しかし、タチアナの返答にご納得された場合は、これから俺たちのことはそっとしておいてください。」

「良かろう。皇太子セドリックの名にかけて約束するよ。」


 こんなことで軽々しく皇太子殿下の御名にかけて何をなさっているのでしょう。

 私は切羽詰まったようなこの状況に、頭がついていけませんことよ。


「タチアナ嬢、答えてくれないか。貴女は今の状況に満足しているのか?貴女が望むならば、私は貴女をこの国で一番高貴な女性にする準備がある。」

「なっ……!?何をっ……!」


 突然の殿下のお言葉に、私は勿論アルバン様でさえ狼狽し、言葉を詰まらせておりますわ。


 それでも……、私はもう決めているのです。


「私は私の人生を、自分で決めたいのです。正直に申しますと、アルバン様のように非常に残念なお方と添い遂げるつもりは毛頭ありませんわ。アルバン様、どうか私との婚約破棄をお願いいたします。」


 私はイライザとして生きて、そして理不尽な刃によって殺されてしまいました。


 そして何の因果かアルバン様に傷つけられて自ら命を絶ったタチアナ嬢へとなり代わり、これからはこの生をしっかり全うすると決めたのですわ。









 




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