16. マルグリット様のお願いには負けましてよ
それからというもの、御令嬢方とは頻繁に交流を図るようになりまして。
特に私とカスペール公爵夫人マルグリット様はとても良い関係を築くことができておりました。
マルグリット様からは個人的なお茶会にご招待されることも増え、美しいだけでなく聡明なマルグリット様との会話はとても有意義なものでしたの。
「タチアナ、貴女は本当に色々なセンスがあるわ。先日貴女が夜会で身につけていた毛皮のケープ、御令嬢だけでなく殿方にも話題でしたわよ。」
「そのようですわね。ご存知の通りこのラガルド王国は広い海に面した沿岸国で、毛皮などは隣国ブーランジェ王国が有名ですものね。」
そう、このラガルド王国は沿岸国だけれど、隣国ブーランジェ王国は国土の半分が森林や山間部の内陸国。
私がイライザであった時にはブーランジェ王国で毛皮を使った装飾品などは定番でしたけれど、こちらでは毛皮はなかなか手に入らず、輸入したとしても大貴族が権威を示すために室内の敷物にするほど高価なもので驚きましたのよ。
敵対国ではないものの、このラガルド王国と隣国ブーランジェ王国は積極的に外交をしてこなかったものですから、輸出入も簡単にはできないのですわ。
私が妃教育を受けていた時に、ブーランジェ王国皇太子であるヒューバート様はそのことを度々嘆いておられました。
「貴女の毛皮はどのようにして手に入れたのかしら?」
「あれは贔屓にしている仕立て屋が他国の布地を輸入するのに長けていまして、その伝を使って何とかブーランジェ王国から輸入できたのですわ。」
「私もタチアナと同じような毛皮のケープが欲しいのだけれど、それなら手に入れるのは難しいかしら?」
親しくしているマルグリット様にそう言われて断れるはずありませんわ。
「私がクチュリエに相談してみますわ。きっと私のケープを作った際の毛皮がまだあるはずですから。」
「本当?とっても嬉しいわ!ありがとうタチアナ!」
嬉しそうに微笑むマルグリット様は本当にお美しくて、しかしどこか可憐で、女の私ですら惚れ惚れしてしまいましたの。
「お美しいマルグリット様の為でしたら私に出来ることならば何でもしたくなってしまいますわね。」
つい戯けるようにして言ってしまいましたのが運の尽きだったのかもしれません。
「あら、本当に?」
「はい。マルグリット様は伯爵令嬢の私にとてもよくしてくださるでしょう?私はとても嬉しいのですわ。」
「それでは……、あと一つ私のお願いを聞いてくださる?」
元王女のマルグリット様がキラキラとしたアースアイで胸の前に手を組んで、コテンと可愛らしく頭を傾げるものですから私は思わず了承してしまったのですわ。
「実は、私の弟であるセドリックがタチアナと話したいと言っているのよ。どうやら以前にタチアナと外交や政治について話したことがとても公務に役立ったようなの。それで、また意見を聞きたいと言っているんだけど……。」
「皇太子殿下が……。」
「貴女には婚約者のアルバン様がいらっしゃるから、おかしな噂になってもいけないし、そこは私が一緒にいることを条件に許してもらえないかしら?」
正直なところ先日皇太子殿下と談話をさせていただいた際に、以前ヒューバート様とお話していた時のような高揚感を感じたのですわ。
ヒューバート様は皇太子でありながらも、国をより良くする為に尽力されていましたの。
そのヒューバート様と私はよく外交や政治について語り合っておりましたわ。
アルバン様とはそのようなお話をしたこともありません。
しかし、聡明な方とのお話はそれだけで自分の為になるのです。
「承知いたしました。私でお役に立てるか分かりませんが、マルグリット様のお願いならば。」
パアアーッと華やかな笑顔を浮かべられたマルグリット様が、ブンブンと私の両手を持って上下に振っております。
マルグリット様は元王女様でありながらも、割と活発なお方なのですわ。




