13. そ、それは巷で話題のあれですの?
「お前には理解できまい……俺の複雑な心境などは。」
「それは、おっしゃってくださらないと分かりませんことよ。」
「いいや、俺のこの面倒な性癖は同志にしか理解し得ないことなんだからな。」
……せ、性癖?
「アルバン様……性癖とは一体何のことですの?」
先程までは随分とお顔色の悪かったアルバン様は、今ではもう開き直りを決め込まれまして、その姿たるや堂々としたものですわ。
「タチアナ、俺は寝取られ願望が強いんだ。」
……寝取られ願望が強い?
もしやアルバン様のおっしゃった『寝取られ』とは……
今市井の民に話題で、本も沢山出ているとつい先日アンが教えてくださったアレですの?
「ご冗談ですわよね?まさか……その為に私を他の殿方と接触させるように仕向けていたんですの?」
そもそも婚約者であるアルバン様とさえ白い関係なのですから、『寝取られ願望が強い』とは何て突拍子もない理由だったのでしょう。
「そうだ。タチアナの外見は誰が見ても美しいだろう。誰もがそんなお前の婚約者である俺を羨んでいるんだ。そしてお前は俺のことを好いている。」
タチアナ嬢の想いに気付いてらっしゃったの?
「そんなお前が俺以外の男と関わって……困ったような顔をするのも、俺に見せない顔を他の男に見せているのも、誰もが好む外見のお前が結局俺のことを好いているのもとても気持ちが良いことなんだ。」
この方、本当にお気立てに難が大アリな方なんですわね。
このようなお方のお陰でタチアナ嬢が自ら命を絶たなければならなかったなんて……到底許せませんわ。
「そして何より、お前が誰か別の男と話したり傍にいるだけで、途方もない嫉妬心が湧き上がるのがとてつもない快感なんだ。」
この方は、『他に意中の方がいてその方との未来の為に婚約破棄したい』なんていうごく普通の考えがあった訳ではなかったのですわね。
とにかくご自分の快楽の為に、想いを寄せるタチアナ嬢を弄んだということになりますわ。
――コンコンコン……
あら、御者の方から到着の合図です。
「アルバン様、もっとよくお話をお伺いしたかったのですが、残念ながらもうドゥイエ伯爵邸まで着いてしまったようですわ。続きはまた後日にいたしましょうね。それではごきげんよろしゅうございますわ。」
タイミングが良いのか悪いのか……御者の方もまさかこのような荒唐無稽な話が馬車の中で繰り広げられていることなど知るよしもありませんものね。
何かまだ言いたそうなアルバン様を侯爵家の馬車の中に残したまま、私はさっさと邸内へと避難いたしましたわ。




