【本編完結】便箋一枚分の距離〜妹に婚約者を奪われた私が、神様への嫁入りという名の生贄にされた結果、幸せになる話〜
「カナリア、君との婚約は破棄させてもらう」
「ねえ、お姉さま。嫁入り先を取り替えっこしませんか?」
家督を継ぐ長男と愛され子の妹に挟まれ、使用人のようにこき使われていた令嬢カナリア。彼女は両親の愛、婚約者全てを妹に奪われてしまった。
代わりに彼女が嫁ぐようにと押し付けられたのは、『人狼様』と呼ばれる神様のもとである。彼が治めているのは国最大のダンジョン……魔窟が存在し、あまりにも危険なため禁足地とされているレングラント山脈。
しかし、カナリアは知っている。かつて人狼様に嫁入りをした娘達は口々に「怖くて逃げ出してきた」と言って帰ってきていることを。
曰く、冷たく暗い人。
曰く、化け物のよう。
曰く、人間を憎んでいる。
悪い噂ばかりが行き交う『人狼様』の元へ一人で嫁入りさせられ、逃げ帰る場所もないカナリアは悲観する。
これではまるで、生贄のようじゃないか、と。
しかしいざ、人狼様のいる山脈までやってくると、迎えにきたのは銀色の毛並みと、赤い宝石のような美しい瞳を持った、馬ほどの大狼。食べられてしまうのかと思えば、大狼は彼女を背に乗せて屋敷まで駆けた。
屋敷に着く前に気絶した彼女は、気がついたそのときにはお屋敷の布団の中だった。そばには文机で眠っている銀髪の美青年。
布団に寝かせてくれたのでは? とカナリアはお礼と名乗りをする。
しかし彼は『クチナシ』と己の名を口にした以外はほとんど話さず、おまけにフードで自分の髪を隠していて、その美貌に似合わず陰気な雰囲気を纏っていた。
なにひとつ喋らずに過ごす毎日。
とうとう耐えられなくなったカナリアは、彼から渡された便箋を使って食事を運ぶ際にメッセージを送ることにした。
彼へ送るメッセージは短い一言から始まった。やがて手紙の内容は「おかえりなさい」「本日の献立は」と増えていく。
それでも来ない返事に落ち込んでいたカナリアは、ある日彼の部屋で「こちらこそ」と書きかけた便箋を発見する。
――もしかして、この人はただ「無口」で「口下手」で「不器用」なだけなのかもしれない。
不器用な優しさと、溺愛。それに気がついたときカナリアは恋に落ちる音を聞いた
◇
ノベルアップ+様でも投稿してます。
「ねえ、お姉さま。嫁入り先を取り替えっこしませんか?」
家督を継ぐ長男と愛され子の妹に挟まれ、使用人のようにこき使われていた令嬢カナリア。彼女は両親の愛、婚約者全てを妹に奪われてしまった。
代わりに彼女が嫁ぐようにと押し付けられたのは、『人狼様』と呼ばれる神様のもとである。彼が治めているのは国最大のダンジョン……魔窟が存在し、あまりにも危険なため禁足地とされているレングラント山脈。
しかし、カナリアは知っている。かつて人狼様に嫁入りをした娘達は口々に「怖くて逃げ出してきた」と言って帰ってきていることを。
曰く、冷たく暗い人。
曰く、化け物のよう。
曰く、人間を憎んでいる。
悪い噂ばかりが行き交う『人狼様』の元へ一人で嫁入りさせられ、逃げ帰る場所もないカナリアは悲観する。
これではまるで、生贄のようじゃないか、と。
しかしいざ、人狼様のいる山脈までやってくると、迎えにきたのは銀色の毛並みと、赤い宝石のような美しい瞳を持った、馬ほどの大狼。食べられてしまうのかと思えば、大狼は彼女を背に乗せて屋敷まで駆けた。
屋敷に着く前に気絶した彼女は、気がついたそのときにはお屋敷の布団の中だった。そばには文机で眠っている銀髪の美青年。
布団に寝かせてくれたのでは? とカナリアはお礼と名乗りをする。
しかし彼は『クチナシ』と己の名を口にした以外はほとんど話さず、おまけにフードで自分の髪を隠していて、その美貌に似合わず陰気な雰囲気を纏っていた。
なにひとつ喋らずに過ごす毎日。
とうとう耐えられなくなったカナリアは、彼から渡された便箋を使って食事を運ぶ際にメッセージを送ることにした。
彼へ送るメッセージは短い一言から始まった。やがて手紙の内容は「おかえりなさい」「本日の献立は」と増えていく。
それでも来ない返事に落ち込んでいたカナリアは、ある日彼の部屋で「こちらこそ」と書きかけた便箋を発見する。
――もしかして、この人はただ「無口」で「口下手」で「不器用」なだけなのかもしれない。
不器用な優しさと、溺愛。それに気がついたときカナリアは恋に落ちる音を聞いた
◇
ノベルアップ+様でも投稿してます。
寡黙な神様と生贄令嬢
婚約破棄されて神様へ嫁入り
2021/05/25 21:46
(改)
帰る場所は、もうどこにもない
2021/05/25 22:09
生贄令嬢、白銀の大狼にお出迎えされる
2021/05/25 22:18
寡黙な人狼様と、生贄令嬢
2021/05/25 22:49
(改)
幕間・ある朝のやりとり
2021/05/26 07:09
(改)
ちょっとした思いつき
2021/05/26 11:54
幕間・便箋のメッセージ
2021/05/26 12:06
書きかけの返事
2021/05/26 17:40
幕間・懐のお守り
2021/05/26 19:07
小さくて、けれど大きな喜び
2021/05/26 20:18
(改)
幕間・愛され子には耐えられない日々
2021/05/26 21:40
幕間・積もる幸せのメッセージ
2021/05/27 12:03
念願のお返事
2021/05/27 20:10
積み重なっていく幸せ
2021/05/27 22:11
(改)
幕間・変化を感じる商人達
2021/05/28 12:10
(改)
早朝の語らいと、恋の音
2021/05/28 20:15
卑屈なカナリアは、甘い鳥籠に囚われる
2021/05/28 22:05
小さな呪いと、色変わりの髪
2021/05/29 12:14
ある夜のたわむれ
2021/05/29 20:12
幕間・銀の大狼様は、懐で眠る姫に苦悩する
2021/05/29 22:14
元婚約者からの手紙
2021/05/30 07:43
(改)
元婚約者からの手紙はお焚き上げされました
2021/05/30 10:15
(改)
付き纏いの蝶々と、大狼の不在
2021/05/30 13:04
(改)
握り潰された悪夢
2021/05/30 16:18
幕間・元婚約者と、実家の末路
2021/05/30 18:07
(改)
いつまでも続く、便箋一枚分の距離
2021/05/30 20:21
後日談
後日談その壱『敬語はいらない?』
2021/06/01 17:09
後日談その弐『寝癖がついております』
2021/06/01 17:11
後日談その参『押し込まれていた性分と、カナリアの願いごと』
2021/06/08 21:45
(改)
後日談その肆『私達の幸せな婚礼』
2025/07/15 13:49
(改)