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【本編完結】便箋一枚分の距離〜妹に婚約者を奪われた私が、神様への嫁入りという名の生贄にされた結果、幸せになる話〜  作者: 時雨オオカミ
寡黙な神様と生贄令嬢

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元婚約者からの手紙

 クチナシ様と出会って四ヶ月と少し。

 山脈内には、花が咲き誇る春の季節が到来した。


「人狼様、お洗濯するのでそのマント貸してください」

「俺の名は人狼様ではない。待て、まだこれがないと落ち着かないんだが」

「替えがあるでしょう!ほらほらクチナシ様、お早めに!」

「わ、分かった。すまない」


 べりっと彼のマントを受け取り、洗濯物として運んでいく。裏地の鮮やかな赤色は彼の瞳と同じ色であり、表面の色も白というより白銀に近く、彼の色をそのまま表しているようで、持っていると少し落ち着く。


 表情に乏しいクチナシ様が、本格的に困り顔をしている目の前で布を抱きしめてみると、彼は複雑そうな顔をしながら自分の顔を指でさす。


 困り顔で「俺はやってくれないのか?」と主張する彼の背中を押して、さっさと見回りに行きなさいとばかりの行動を取る。すると彼は、その三角の耳をペタリと頭にくっつけて落ち込んだ。


 か、可愛らしい……これだからやめられないのよね。


「カナリア……」

「は、はい?」


 答えると、むにっと頬を柔らかくつままれて、そのままもにもにと揺らされる。


「人狼しゃま……やめ……」

「クチナシ」

「クチナシさま……」


 言い直すことを要求されて、そのようにすれば彼は満足そうに頷く。


「……夫婦らしく、なった」

「い、いいのですか?私……その、調子乗っちゃっていますけれど」

「どんどん調子に乗れ。俺に遠慮はいらない。なんでも頼むといい。神とは、人の子に頼られるのが至上の喜びだからな。特にあんたから頼られると、俺はもっと嬉しい」


 本当、随分とおしゃべりしてくださるようになって、私も嬉しい限りである。けれども。


「カナリア」


 クチナシ様だけ名前を訂正しておいて、私のことは大半が『あんた』呼びなのはどうにかならないかしら。


「ああ、カナリアに頼られると、すごく嬉しい」

「そうですか……じゃあ、私。結婚しているからこそできることが、たくさんしてみたいです」

「結婚しているからこそできること……?」


 これで共寝とか言われたらどうしよう……とか思いつつ、思案する彼の顔を見上げる。朝から本当に綺麗なお顔だこと。


 そして、クチナシ様はなにか思いついたようにハッとすると私と視線を合わせる。


「……………………………………離縁?」

「人狼様、誤解されやすいのはそういうところですよ!」


 思わず叫んだ。


「俺、人狼様、違う」

「確かに離婚は結婚しているからこそできることですが! そういうことでは! ありません!」


 もっとなにかあるでしょう! 季節の行事を一緒にやるとか! そんなやりとりをしているときだった。


 ピルルルと鳥の鳴き声が頭上から聞こえてきて、二人して見上げる。そこには、上空で円を描くように飛んでいる鳥。ビーストアウルの姿があった。


 基本的にビーストアウルは手紙を運ぶための訓練がされた鳥だ。魔物の一種であるためある程度丈夫だし、強い鳥ではあるが、このお屋敷の上空まで野生のビーストアウルが来ることは滅多にない。


 というか、野生のビーストアウルはあくまで魔物なので、このお屋敷の近くには寄って来られないのだ。悪意や害意のある魔物は、結界が張ってあるこのお屋敷には気がつくこともできないのだから。


 つまり、このお屋敷の上空にいる時点であのビーストアウルは手紙を運んできたのだと分かる。


 クチナシ様が口元に指を当て、口笛を吹く。

 その、独特な音階の口笛に反応した郵便魔梟(ビーストアウル)は、バサバサと翼を動かしながら彼が差し出した腕に留まると背中に背負った鞄をこちらに見せる。ここに手紙が入っているらしい。


 クチナシ様が手紙を取り出し、差出人を確認すると、こちらを見た。


「アイジス・ジェスリンという名に覚えはあるか?」

「え!?」


 それは、元婚約者の名前だった。

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