第四十二話【第90階層】
雲の階層を始めとして、かなりの速度でひたすら穴を掘り続けること数十秒。
ようやく次の階層に到着した。
61層目からかなり飛んで、ここは90階層に位置する。
単純に雲のステージの真下にその間の階層が存在しなかったのだ。
謎解きの小さな部屋だったり、階層がずっと斜め下に伸び続けていたり。
今までのダンジョンとは違い、このサードステージは全体的にごちゃごちゃしているのである。
「なんだこの部屋……」
瑠璃が周囲を見渡しながらつぶやいた。
「最下層でしょうか?」
「可能性はある」
円形の部屋で、出口の扉がひとつだけある。
部屋の中心には水色に輝くクリスタルが浮いていた。
「おーい、二人とも避けてくれぇ!」
頭上からそんな空蝉の声が聞こえる。
どうやら瑠璃が掘った穴から下りてきているらしい。
「はぁ、やっぱりきたか」
「きましたね」
呆れた表情でそんなやり取りをしつつ、瑠璃と月は少し横にずれる。
「おわっ……あぶねぇ。足を挫くかと思った」
空蝉はバランスを崩しながらも、なんとか着地した。
「瑠璃さん。とりあえず進むのを中断して休みませんか? ちょっと眠たくなってきました」
「そうだな。見た感じ魔物もいないみたいだし、ゆっくりと眠れそうだ」
「私、瑠璃さんの腕枕で寝たいです」
月が彼の服を摘まみながら言った。
「仕方ないな。月が重すぎて腕が潰れそうな気がするけど、せっかくの頼みだし頑張るか」
「し、失礼ですね! 瑠璃さんのステータスならなんともないでしょ」
「まあな」
「逆に瑠璃さんのほうこそ、私のことが好きすぎて強く抱きしめて潰さないでくださいよ?」
「それは約束できない。好きが溢れて止まらない可能性はあるし」
「……でも、ちょっとなら強くしてもいいですよ?」
「おーい! 一応俺もいるんだが」
空蝉がジト目で言った。
「お前本当に邪魔だな」
「非常に邪魔ですね」
「悪かったな!」
「月と二人きりで寝たいから、しばらくの間この部屋から出ていってくれ。どうせこの感じからして外にも魔物はいないだろ。……みんなで休憩タイムだ」
「文句を言える立場でもないから、俺は別にいいけど……二人で勝手に先へ進んだりしないよな?」
「それは約束しない。勝手についてくるって言ったのはお前だろ」
「…………それもそうだな。わかった」
「まあ、進む時間になったら呼びに行ってやるよ」
「えっ、いいのか?」
「クリスタルに触れても爆発したりしないかどうかの検証に使ってやる」
「めちゃくちゃ文句を言いたいけど、一緒に進めるならそれでもかまわない」
「交渉成立だな。じゃあさっさと出ろ」
「了解した」
空蝉は扉を開けてこの部屋から出ていく。
外には長い階段が上へと続いており、瑠璃の予想通り魔物は一体もいなかった。
「勢いでここまでついてきてしまったが……あの二人相当おかしいぞ」
階段に腰掛けつつ、彼はつぶやいた。
「レベルとステータスはもちろんのこと、普通他人がいる前であんないちゃいちゃするか?」
もう何年も人と出会っていなかったため、瑠璃と月はいろいろと感覚がおかしくなっていた。
瑠璃に関しては最初から変なのだが。
「子作りでもしかねない雰囲気だったぞ。……まさかここでやり始めるんじゃないだろうな」
そう言ったのと同時に、空蝉の息子が成長し始めた。
かわいい見た目の月が裸になっている姿を想像してしまったのである。
実際彼女は二十代後半なのにもかかわらず、絶世の美少女と言っても通用するレベルの容姿をしている。
そんな女性の裸を思い浮かべて勃たない男はいないだろう。
「だめだ。こんな想像をしていることが琥珀川瑠璃にバレたら殺される」
空蝉は首を左右に振り、目を閉じた。
「少しでも眠って体力を回復しておこう」




