第四十一話【巨鳥】
「そういえば今まで一度も使用系のスキルを覚えたことがなかったけど、何か習得したほうがいいかな。……月はどう思う?」
空蝉の言葉を無視し、瑠璃が彼女に尋ねた。
「ギャァァァ! ギャァァァ!」
「瑠璃さんはステータス重視でいいと思います。今更何かを覚えたところで意味ないかもしれませんし」
「やっぱりそうか」
「おい二人とも! 俺たちの頭上にやばい相手がいるんだって! あいつは見た目に似合わず素早い。超加速を使っている俺ですら前回は逃げるので精いっぱいだったんだぞ。何のんきに会話してんだ」
必死に空蝉が指さしている先には、緑色の巨大な鳥がいた。
全長100メートルはあるだろう。
鋭い双眼でじっと三人を睨みつけている。
「ギャァァァ! ギャァァァ!」
「月は一応盗賊系のスキルをいくつか持っていたよな?」
「はい、持ってますよ。さっき空蝉さんが言っていたMPを消費し続けて素早さを二倍にする【加速】と、ポイントを割り振った分だけアイテムのドロップ率が上がる【盗み】の二つを習得しています。瑠璃さんに出会って以降はステータス上昇系以外にポイントを振ってないですし、使うこともなくなりましたけど」
「聞けよ! 上にやばいのがいるんだよ」
そんな空蝉の声を無視して、瑠璃は会話を続ける。
「そういえば、俺の真似をしてめちゃくちゃ【攻撃力アップ】に振っていたような気がするな」
「真似をしたわけではありませんが、影響は受けているかもしれません」
「何言ってんだ。それを真似って言うんだろ」
「この意味がわからないということは、瑠璃さんって三次元の思考回路なんです?」
「はぁ? 誰に言っている──」
「──ギャァァァ!」
頭上にいたはずの緑色の巨鳥が消えたかと思えば、瑠璃の目の前に現れた。
そして彼を丸呑みにしようと大きなくちばしを開き──なぜか巨鳥が爆発した。
周囲に細かくなった血や羽の残骸が飛び散る。
瑠璃と月の頭上からレベルアップの音が響いた。
瑠璃のレベルが上がったことから、獣人や魔女と同等かそれ以上の経験値をもっていたらしい。
「月と楽しく喋ってんだから、邪魔すんな」
「もう私は瑠璃さんの人外っぷりにはツッコみませんよ。多分空蝉さんが代わりに驚いてくれます」
ただ普通に殴って倒しただけなのだが、空蝉には何が起こったのかわからなかったのだろう。
口をパクパクとさせながらつぶやく。
「な……な……。俺があんなに恐れていた強敵を、会話しながら倒しただと!?」
「で、話を戻すけど、俺が三次元の思考回路なわけないだろ」
「そうですか? たまに怪しいですけどね」
「おそらく月が二次元の考えに近づいた時にそう感じているだけだと思うぞ」
「そんなことは絶対にありません。私のなかで瑠璃さんが適当に喋っているという事実は確定してますから」
瑠璃は一度ため息をつき、口を開く。
「さてと、そろそろ穴を掘って先に進むか」
「あー! またそうやって話を逸らすぅ」
「もともと邪魔者から逃げるために走り出したのに、あいつ追い付いてくるし。かといってこれ以上速くしたら月への負担が大きくなるだろ」
「あ、それで遅めに走っていたんですね」
「俺はいつだって月のことを大切に思っているからな」
「……やっぱり瑠璃さんがそういうセリフを言ってもあっさりしているんですよ。というか気づいたら完全に話題がすり替わってますし」
「まあとにかくそんなわけだから、金髪。お前もうついてくるなよ」
「そ、そんなぁ」
瑠璃の言葉に、空蝉は残念そうな表情を浮かべた。
「お前が恐れていた強敵って、さっきの鳥のことだろ?」
「ああ、そうだ」
「ならもういないし、不安要素はなくなっただろ。後は階段を見つけて帰るなり先に進むなり勝手にやってくれ」
とそこで、瑠璃が相手では無理だと判断したのか、空蝉は月のほうを向いて尋ねる。
「……あの! ランキング第二位の鳳蝶月さん。どうか、俺も一緒に行動させてもらえませんでしょうか」
「えっ、嫌ですけど」
月がお姫様抱っこされたまま即答した。
「えっ……」
「私は瑠璃さんと二人きりで冒険したいんです。あなたは必要ありません」
「そんなぁ」
「もうわかっただろ? お前はいらない」
瑠璃が告げた。
「わかった。じゃあ俺は勝手についていくことにする」
「こいつうぜぇ」
「あんたたちが俺を見捨てるように、俺は見捨てられないようにしがみつく」
「はぁ……。相手をするのがめんどうだからもういいや。勝手にしろ」
「そうさせてもらおう」
その後、瑠璃は地面を掘って下へと進み始めた。




