第二十四話【最終決戦・十】
魔神はすさまじい速度で瑠璃へと近づき、全力で殴りかかる。
しかし白いオーラに阻まれ、瑠璃の身体へと到達する前に拳が止まった。
「あれ?」
「何やってんだお前」
「嘘でしょ? ……今の僕の攻撃力なら、世界の理にすら干渉できるはずなのに」
「お前やっぱり頭悪いな」
「はぁ?」
「世界の理に干渉できる程度で、俺の理に干渉できるはずがないだろ」
「全然意味がわからないよ」
「だろうな。お前最初からずっと頭が固かったし」
「うるさい! だったら時間を完全に止めれば……」
そう言って魔神が指を鳴らすも、瑠璃の時間が停止することはなかった。
普通ではないレベルのせいで、そもそも常識が当てはまっていない。
「やっていることがサードステージの魔女王と一緒だぞ?」
「なっ……あ、そうだ! レベルを消せばっ」
指をパチンッと鳴らすも、やはり瑠璃の体にはなんの影響もない。
「なんで……」
「このレベルは絶対神が俺に与えたものだ。どう考えてもお前が創ったシステム外だろ。三次元の常識すら備わっていないのか?」
「黙れ!」
「じゃあ次はこっちの番だ」
瑠璃がゆっくりと歩き出した。
「ま、待って」
「……」
「いったん落ち着こう?」
「……」
瑠璃は無言で進み続ける。
「わ、わかった、僕の負けだ! だからちょっと待って! 君のレベルはいくつなの?」
「ん? 教えない」
「…………」
「まあただ……さすがは絶対神だなって感じ」
すると魔神が諦めたように口元を緩めた。
「ふふ、なるほどね。……じゃあ僕がいくら頑張ったとしても、やっぱりあの御方には勝てないってことか」
「世のなかって理不尽だよな」
突然瑠璃がそんなことをつぶやいた。
「えっ?」
「逆に言えば、俺は今までお前の手のひらで転がされていたってことだろ? 現にレベルがカンストした状態で挑んでも勝てなかったし」
「……まあね」
「そしてお前が何万年と力を溜めたところで、絶対神が気まぐれで人間に貸した力に手も足も出なかった」
「……」
「要するに生まれた時点で勝敗は決まっていたってことだ」
「……」
「けど俺は弱者なりに努力し続けた。その結果、絶対神が興味を持ってくれたんだから……ま、今までの頑張りも無駄じゃなかったってことか」
「運がよかっただけだよ。君みたいな人間はこの宇宙にごまんといる」
「だろうな。そもそも俺は最初から自分が特別だとは思っていない」
「……何が言いたいんだい?」
「お礼が言いたい」
「?」
瑠璃は彼の目の前で立ち止まり、口を開く。
「お前が気まぐれで地球にダンジョンとレベルシステムを創ってくれたおかげで、俺は自分らしく生きることができた。……楽しかったんだよ、ずっと」
「ふ~ん」
「ダンジョンが出現していなかったら俺は何をしていたんだろうな」
「知らないよ」
「俺の性格からして、格闘技でも始めていたような気がする」
「興味がないね」
「なぁ、魔神」
「なに?」
「ありがとう」
「……」
「そして許さねぇ」
「なんで!?」
「お前が創ったダンジョンのせいで月の両親が死んだんだぞ? そのせいで月はたくさん悲しんだ」
「そんなのダンジョンに潜った本人たちの責任じゃん」
「まあな」
「僕にそんなことを責められても困るよ」
「実際俺としてはダンジョンがあって本当によかったし、まあそういうことだ」
「……おかしいよ」
「矛盾しているだろ? でもそれが俺の生き方だから」
「……」
「とにかく一度墓の前で土下座しろよ。そうしたら俺からの礼として、お前の命だけは許してやるか
ら」
「……」
「アニメを見たりゲームしたり、漫画読んだり、絶対神に挑むために力を蓄えたり、いろいろとやりたいことはいっぱいあるだろ?」
「…………一度土下座をするだけでいいんだね?」
「ああ。俺は嘘はつかない」
「……わかった。従おう」
魔神はあまり納得していないような表情をしつつも、頷いた。
「ふぅ、ようやく条件を飲んでくれたな。……じゃあとりあえず時間の流れを元に戻してくれ」
「うん」
魔神が指を鳴らすと、時間の停止が解除された。
瑠璃は後ろを振り向いて月に話しかける。
「月。魔神がお墓の前で土下座をしてくれるってさ」
「……はい? そんなこと言ってないと思いますけど」
「時間を止められている間に話し合ったんだよ」
「えっ……そうなんです?」
「ああ。だからお墓の位置を教えてくれ」
「あ、はい。えっと、私の自宅があった土地の庭に土を盛って作ったことがあります。天神ノ峰団に所属していた頃を含めてずっと戻っていないので、もうなくなっているかもしれないですけど」
「あー、そっか……」
「まあ、重要なのはその場所で土下座をしてもらうことなので、お墓がなくなっていても問題ありません」
「ならよかった。そういうことなら、仮に誰か別の人がその土地で暮らしていたとしても、俺が頼み込んで庭に入れさせてもらうから安心しろ。……どうせお宝を大量に渡せば目の色を変えるだろ」
「ふふっ、相変わらず強引ですね」




