第十七話【最終決戦・三】
瑠璃が目を開けると、そこは神秘的な部屋のなかだった。
円形になっており、窓は一切ない。
白色の壁に、金色の柱。
「初めましてじゃの、琥珀川瑠璃くん」
目の前にいるおじいさんが口を開けて言った。
白い顎鬚を生やしており、真っ白のローブ姿。
「誰だあんた?」
「わしは地球を管轄している神様じゃよ」
「神様? ……じゃあ、ここは?」
「ちょっと頼みたいことがあって、お主が気絶するのと同時に魂を神界へと呼んだんじゃ」
そう言われて瑠璃が自分の両手を見てみると、半透明だった。
「……そうか。俺はやられたのか」
「強かったじゃろ? 魔神は」
「うざいからもう一度やりてぇ。次挑んだら絶対勝てるぞ」
「おぉ、それは頼もしいのぉ」
「で、地球の神様とやらが俺になんの用だ?」
「単刀直入に言おう。魔神を倒してほしい」
「そりゃーできることなら俺もやりたいけど、もう負けたんだよな。……ったく、マジで悔しいな。まだ全然本気を出してなかったのに」
「わしの力でお主を生き返らせることはできる」
「……本当か?」
「更に、お主の全ステータスを一時的に十倍にしてやろう。これがわしの限界じゃ」
「それだけの力があるなら、なんでお前が魔神を倒さない?」
「わしでは無理じゃ。神としての格が違いすぎる」
「へぇ」
「勝手にダンジョンやレベルシステムを地球に出現させられて、困っておったんじゃが……魔神が相手では何もできん」
「それで俺をパワーアップさせて、あいつをやらせると?」
「うむ、そうなる」
「別にいいけど、何かお礼はもらえるんだろうな?」
「お礼?」
「そうだな……。勝った暁には何かひとつ俺の願いを叶えてくれ」
「う~む、願いを叶える……か。まあ、わしにできる範囲でならいいじゃろう」
「交渉成立だ。ただし、もし約束を破ったら俺がお前を殺すからな?」
「怖いのぉ。神が嘘をつくはずなかろう」
「そうか」
「じゃあもう準備を始めるぞ? あんまり時間をかけていたらお主の連れも危ないじゃろうし」
「そうだ! 月が一人で残っている。おい、早くしろ!」
「まあ少し待たんか。お主のステータスを増やしてから蘇らせるからの」
「おせぇ。……ぶっ殺すぞ?」
「お主、魔神よりも気性が荒いのぉ」
とその時、瑠璃の全身に水色のオーラが纏い始める。
「おぉー。これはすごいな。体全身から力がみなぎってくる」
「すごいじゃろ?」
「無駄口を叩くな。さっさと蘇らせろ」
「ほいほい」
神様が瑠璃の体へと触れた直後、彼の姿が消滅した。
◆ ◇ ◆
「ほらほら人間の女。もっと頑張らないと愛しの男が死んじゃうよぉ?」
「……むぅぅ」
月は倒れている瑠璃の体を守るようにして、魔神の攻撃を受け続けていた。
もちろん魔神は本気で月にダメージを与えているのではない。
わざと手加減して彼女を弄んでいるのだ。
「さっきはよくも僕のあそこばかり攻撃してくれたね? でも残念ながら、この姿の僕を相手に同じ手が通用すると思わないほうがいいよ?」
そう言いながら放たれた魔神のローキックが、月のふくらはぎに当たった。
彼女は歯を食いしばって痛みに耐えつつも、同じようにローキックでやり返す。
「あはは! 弱すぎて全然効かないよ? これが見本」
もう一度魔神のローキックが月のふくらはぎに命中し、彼女は思わずバランスを崩した。
地面に手をつき、目に涙を浮かべる。
悔しいのと痛みで少しずつ精神が削られてきているのだ。
「あれ? もう抵抗しないの?」
「ぬぅぅ……」
「そんなんじゃ全然面白くないよ。愛する者のために必死になる人間の姿を見たいんだから、もう少し頑張ってくれる?」
「言われなくても──ぐぅ!?」
高速で相手に腹を蹴られ、月は真後ろに吹き飛んだ。
地面を転がり、ちょうど倒れている瑠璃と衝突。
「うっ……」
蹴りが予想以上に痛かったのだろう。
彼女は瑠璃の胸に顔を埋めた状態で、相手に背中を向ける。
「そんなことをしていたら二人同時にやっちゃうよ?」
「……」
「ほらほらぁー!」
「うぐぅぅぅ」
「惨めだねぇ? 普通の人間くん」
「痛っ……」
魔神は笑いながら月の背中に連撃を入れていく。
「安心して。すぐには殺さないからさ」
「……」
「ちなみに僕が手加減をやめたら、君の背中なんていつでも貫けるからね?」
「……やめ……て」
「じゃあ避けたら?」
「……っ!」
月は勢いよく瑠璃を抱っこし、走り出した。
だがすぐに追いつかれる。
「よっと」
「きゃっ!?」
足払いをされ、彼女は瑠璃を持ったまま転んだ。
「あはは! 逃げるなんて無様だね。まるで地を這う虫けらみたいだよ?」
「う、うるさいです」
「てっきり普通くらい強いのかと思っていたんだけどな。……僕、虫けらには興味ないや」
「まだ……負けてません」
月はゆっくりと立ち上がった。
それから彼を守るようにして前に立ち、魔神と向き合う。
「もう殺すね」
「……」
魔神は拳を握り、微笑んだ。
「バイバイ」
そうして放たれるパンチを前に、月は思わず目を閉じてしまう。
この相手には勝てない。
そもそもの格が違う。
そう身体が勝手に判断し、諦めてしまったのだ。
静かにくるはずの痛みを待つ。
だがいくら待っても、パンチが彼女に命中することはなかった。
疑問に思い、おそるおそる目を開けると……とある手のひらによって魔神の拳が受け止められていた。
見おぼえのある手。
「待たせたな、月」




