DEEP BLUE
見るからに上がった威力にクライスも確実に異変に気付いたらしい。
辺りで様子を伺っていた烏賊足どもが一斉に退き初めて、逃げの一手を打って来る。
【逃げてるわよ!!】
(わかってるっての!!)
せっかちなテレネッツァのキンキン声が頭に響く。逃すつもりは当然ねぇよ。
長くなった『ヴォルティチェ』の柄をぐるぐる回して、渦を作り上げる。
横に渦巻いて出来た海水の流れは目には見えづらくても物凄い勢いで伸びて行って、烏賊足どもが逃げていった方向へと向ける。
(逃げた方向がバレバレだぜ!!とっ捕まえてやるよ!!)
伸びた渦が逃げる烏賊足を巻き込んで、ドンドンと此方へと引き寄せて行く。
烏賊足が逃げた方向に本体もいるはずだ。このまま足が千切れない程度に渦に捕まえてりゃ、そのうち姿が見えるだろうぜ。
【キタキタキタキタァッ!!てか気色悪!!妖精界にもあんなゲテモノ居ないわよ?!】
(こっちの世界にも普通はいねぇからな!!)
テンションが上がってうるさいテレネッツァ。コイツから見てもクライスは相当キモいらしい。
てか、妖精界にもいないって妖精界にゃゲテモノ多い見てぇな言い方してやるなよ。
まぁ、こっちも見た目最悪な生き物結構いるけどさ。
渦に巻き込まれて、此方に引き摺り出されて来たクライスは渦に捕らえられながら、必死に辺りの岩に吸盤を伸ばして、身体を固定させようとしてるけど上手くいってない。
巻き込まれて身体ごと回転させられてりゃ、上手くいかないのも当然だ。
そのままドンドンと近くまで渦で引き込んで、『ヴォルティチェ』の射程圏内に入る。
【まずは一撃。ブチ込みなさい】
(ったりめぇだ。コイツにゃ好き勝手されたからな)
柄を回転させて渦を作る『ヴォルティチェ』を止め、しっかりと手に握る。ただし回転する力はそのままだ。
慣性で回転を続ける柄を握り、身体ごと大きく身を翻して遠心力と瞬間的に出せるパワーの最大限を『ヴォルティチェ』に乗せる。
それだけであんだけ今まで苦戦していたクライスの身体と烏賊足の一部を叩き斬った。
(ちっ、腕一本か!!)
【ギリギリのところで避けられたわね。でも戦力を削ぐには十分よ。畳みかけなさい!!】
斬り落とせたのは右腕と烏賊足の半数ほど。確実に仕留めらる一撃には及ばねぇ。
すんでのところで半身分避けられちまった。惜しさに舌打ちするけど、テレネッツァに発破をかけられたのもあって、すぐに次の一手に移る。
残った烏賊足を駆使して、出来る限りの速度を出して泳いでいるだろうクライスには、既にかなりの距離を取られている。
奴からすりゃ、突然あったはずの圧倒的有利が一瞬で無くなった気分だろうよ。
ウチだってそんな事になったら一目散にまず逃げる。立て直しもそうだし、相手を分析する時間も欲しい。
本当に逃げ切れたら万々歳だ。ガッツリ対策を練る時間が出来るし、戦闘で得たダメージの回復も出来る。
だから逃げの一手自体は間違ってねぇ。自分が不利になったと判断した時の逃げ足の速さは天下一品だ。
(生憎、相手が悪かったな!!)
『ヴォルティチェ』を振り、水流を作ってそれに乗る。水の流れを味方に付けたウチと、水を掻き分けてせっせと進むクライス。
どっちが速いかは、比べるまでもない。今、水中でのアドバンテージはウチの方が勝っている。
すぐに回り込み、クライスの行く手を阻む。すぐに進路変更しようとしたクライスだが、もう遅い。
この辺りの水流のコントロールは全部取った。今、ウチとクライスの周囲は飲まれれば出られない激流の檻の中にいる。
「な、何でだ?!なんでお前達魔法少女はそうやって特別になりやがる?!どれだけ俺が力を手に入れても!!なんでだよ!!」
(知るかよ。鍛え方が足りねぇんじゃねぇのか?)
【才気とは磨く物。磨く努力を怠った人物に、決してきらびやかな才能は手に入りませんよ。神童と持て囃された子供も、努力を続けなければ凡庸になるのと同じです】
十で神童十五で才子二十過ぎれば只の人。ってか?
本物の天才は努力をやめないってのはよく知ってるからな。
直近で見た。本物の天才を。だから目標が無くても、やれたのかもな。魔法少女ってヤツを。
【この子は、目標は無くとも努力は怠らなかった。そして目標を得るキッカケを得た。化けるのは当然。貴方が負けるのは必然。聞こえてないでしょうけどね】
ウチの頭の中で言われてもな。だがまぁ、確かに目標かどうかは怪しいが、覚悟はついた。
あとは続ける努力をするだけだ。新しい目標を見つけるのもアリだろうな。
何たってウチは『激流の魔法少女』。流れが変われば、見方も変わるさ。人なんざそんなもんだろ。
(悪いな。姉として、リーダーとして。誇れる背中を見せ続けなきゃなんねぇんだよ。少なくとも、ウチは誰かに誇れる魔法少女になる。それがウチの目標だ)
【良いわね。十分だわ】
どうせ聞こえない言葉を頭の中でつらつらと並べて、2人で笑う。
及第点ってところだろうな、テレネッツァからすりゃ。それでも合格点なら問題ねぇ。先輩からのありがたい言葉には耳を貸しておくさ。
【トドメよ。あんまり時間も無いわ。血、止まって無いんでしょ?人間の血は妖精で言う魔力だってのは知ってるわ。急ぎなさい】
言われるまでもなく、ここで終わらせる。クライスはもう人間として生きていくのも難しいだろうしな。
ここで終わらせてやるのが、色んな意味で良いだろうよ。
……正直、頭痛と倦怠感が酷くなってきたってのも事実だしな。
(『固有魔法』ッ!!)
これが、最後の一撃。確実に決める。
クライスとウチをその内側に閉じ込めていた水流の檻がクライスへと殺到して、ヤツとウチを一気に水面まで持ち上げる。
強制的に海面へと上げられていくクライスがその衝撃と身体へかかる圧力の急激な変化に悲鳴を上げているのを聞きながら、ウチらは勢いをそのままに海上へと飛び出る。
眼下に映るのは海面を覆う大渦。それらが『ヴォルティチェ』へと集まり巨塊となる。
【トドメよ!!思いきっりブチ込みなさい!!その魔法の名前はーーッ!!】
「【『深き紺碧の大海』】ッ!!」
海そのものがクライスに塊となって襲い掛かり、ヤツの身体は少しも耐える事が出来ないまま、バラバラになって海へと落ちて行った。
「ーーっ。流石にちとしんどい、な……」
『固有魔法』の余波で荒れた海を魔法で抑えて、海面へと着地したウチは、その場でガクリと膝をつく。
ぽたぽたと垂れて来る血はかなりの量だ。どう見てもヤバい。
【ちょっと?!大丈夫なの?!】
「かなりヤバい」
【悠長に答えてる場合か!!!!】
頭に響くキンキン声がキツいぜ。かと言ってどうしようもない。
ノワールが気付いて治療キットを持って来てくれるのを待つのが多分最善だ。
そう思った時に、海の底からズンっと響く音がして、海面が再び一気に荒れる。
「なんだぁっ?!」
【……っ!!アズール、逃げなさい!!】
荒れる海と怪我で動けないウチの頭の中で、警告するテレネッツァの声の後、ウチの足元。
水底から迫る巨大な顎が、ウチの目に飛びこんできた。




