DEEP BLUE
足元から迫り上がってくる鈴蘭の紋様に包まれ、ウチの姿が変わる。
今までの格好を一言で表すなら女戦士だ。毛皮の鎧と鎖かたびら。無骨でゴツい格好はあまり魔法少女らしくない。
そこから一転。ウチの装備から鎧が消えて布地に変わる。紺碧の深い碧が身を包んで行く。
上半身は身体のラインが出るようなピッタリとした布地なのに対して、肩から手首、腰から足首までは大きく広がっている。
振り回すと波打ってヒラヒラと舞うのは、何つーか民族衣装っぽい。アジアとかアラビアとかのな。
肩に掛かるやたらと長いうっすーいマフラー?いやストールだっけかこういうのって?
服飾の用語はよくわかんねぇけど、全体的に軽くてゆったりとしてる。今までとは全く違う姿は確かに『進化』してるのかもな。
【良いじゃない。名前は何てする?】
(悠長だなオイ。まぁそうだな。アズール・アプサラー、なんてどうよ)
【ふーん、良いんじゃない?私は知らない言葉だけど、意味があるんでしょ?】
(まぁな。この姿にゃお似合いだ)
アプサラーはインド神話で水の精のこと。天女の意味もあるらしい。
今のこの格好は傍目からしたらそう見えるだろうしな。悪かねぇ名前のハズだ。
天女なんてガラじゃねぇけどな。暴れ回る天女なんて聞いた事もねぇぜ。
【さて、行くわよ。まずは身体強化魔法からよ】
(早速物騒で笑うわ)
装飾の増えた『ヴォルティチェ』を振りまわし、感覚を掴む。心なしかデカくなって軽くなったか?
片手でも振り回せるな。こりゃ良い。
クルクルと振り回すと広がる袖口と長いストールが邪魔になるかと思いきや、意外と重心のバランスを取るのに良いし、リーチを勝手に隠してくれる。
成る程ね。デッカい斧の『ヴォルティチェ』を振り回すウチには持ってこいだ。
回転を使って遠心力で振り回す事が多かったからな。回る事が戦術として更に理にかなうならそれに越したことはねぇ。
【分析上手で結構。相手が勘付き始めたから手短に伝えるわよ】
ウチらの様子が変わった事に離れて身を隠してるだろうクライスも気付いたらしい。
付かず離れずをキープし、ウチに掴まれないようにとしていた牽制がより積極性を増して、ウチを捕まえる動きに変わっている。
軽く振り回せるようになった『ヴォルティチェ』をグルグルと手のひらで回しながら、軽快に烏賊足を切り飛ばしつつ、テレネッツァの話にも耳を傾ける。
忙しくて困るぜ。
【魔法はイメージなのは貴女達も良く知ってるわね。だからイメージしなさい。そして今ここで感じ取りなさい。果ての果てまで広がる大海原を】
水中呼吸の魔法で深呼吸しながら、言われた通りのイメージをする。
そもそもここが大海原のど真ん中。イメージするよりも感じ取った方がいいだろうな。
【恐ろしい力を内包しながら、命を育み、守る海。船をも巻き込む渦潮も、街を飲み込む津波も、生命を生み出した太古の海も、今もこの世の中で最も沢山の命の揺り籠となっているのも海よ】
海ってのは恐ろしい。時には街を壊し、命を飲み込んでぐちゃぐちゃにしちまう。でも、同時にその豊かさは沢山の命に関わってる。
その力をウチらは今から再現する。
【そう。私達の魔法は水じゃない。私も、貴女も水属性なんて小さな枠組みに囚われないわよ。私達の属性は水じゃない!!今から私達が使うのはーー】
成る程な。そういう捉え方もあって、それを信じて続ければ魔法は本当にそれになる。
それが魔法だ。信じたもん勝ち。願ったもん勝ち。
ウチを信じろ。ウチだけの道を切り拓くために。酸いも甘いも飲み込んで、受け入れてそれでも前を向くだけのもんは貰ってる。
【海属性よ!!思いっきりやりなさい!!アズールッ!!】
(『固有魔法』ッ!!)
海属性。そう豪語するテレネッツァの魔法をウチがウチなりに使う。
コレがウチの海魔法。
(『DEEP BLUE』ッ!!)
深い深い、碧の魔法が辺りの海ごと渦巻いて、ウチの身体に纏わりついた。




