不調
ウチの考えたことが通じたのか『優しさ』のメモリーことテレネッツァはゲラゲラと笑っている。頭の中で大声で笑われてるウチは大迷惑だ。耳を塞いても聞こえて来るからな。
【あー、おっかしい。相変わらずね、アイツ】
(人の頭ん中でゲラゲラ笑うなよ。頭が痛くなる)
【ごめんごめん】
長期戦を目論見、攻勢を強めて来ないクライスを相手にしてるからこその悠長なやり取りだ。だけど一人でやるよか良いわ。ルビーにメモリーの話を聞いておくのは正解だったのかもな。
メモリー、及びSlot Absorberには個人の相性があるってのは私達も薄々は感じていた。特にルビーなんかはSlot Absorberとの親和性が良いのか。もしくはメモリーへの無意識な理解度が高いのか、アイツはどんなメモリーを使わせてもすぐに高い効力を発揮する。
フェイツェイは『鷹』のメモリーを繰り返し使っていくことでその習熟度と理解度を上げて行った。
ルビーとフェイツェイ。二人のメモリーとSlot Absorber使用者に共通するのは、二人ともメモリーを自分を強化するためのただの道具として見ていない事がある。
『獅子』のメモリーはルビーの使い魔であるリオが中に入ってるし、『鷹』のメモリーはフェイツェイが飛ぶことに関して経験を積むことでその効力を増して行った。
二つとも、メモリー或いはメモリーの中にいる何かを理解しようとして能力を飛躍的に伸ばしてた。
それはルビーも感じてたことみてぇで、メモリーの中に意思があって、それとしっかり調子を合わせることがメモリーの力を引き出すポイントだっつってたな。
ただの道具じゃない。魔獣の、妖精の、果ては魔法少女の魂が宿るらしいメモリー。
その魂が持つ自我と意気投合すればするほど力を貸してくれるってわけだ。ルビーはその調子を合わせるのが上手くて、フェイツェイはそれを努力で勝ち取った。
【貴女はどうするアズール?ずっとヤキモキしてた貴女に私の魔法は使えるかしら】
(どういうことだよ。手を貸すのか、貸さねぇのか。どっちなんだよお前)
【のらりくらりと流されるままにやってないで、いい加減自分の足で立てって事よ『激流の魔法少女』。ママとパパにとって都合が良い生き物になるのが貴女のやりたい事かしら?】
(……)
痛いところを突いて来やがる。ウチが今魔法少女を続けてる理由は妹達と仲間が心配以外に無い。
金は翔也さんが困らないレベルで稼いでるし、ウチ個人の魔法少女を続ける理由はほぼ無いと言っても良い。
良い子ちゃんの自分を続けて、目標が無い。確かにその通りで更にはメモリーとSlot Absorberを使い続けることにも多少なりとも疑問はある。
結局はSlot Absorberを介してメモリーの力を使うのは他人の力を拝借して戦うって事だ。それは果たして自分の力なのか。
自分の目標も無ければ、メモリーの力にも疑念を持ってるウチに『優しさ』のメモリーとして力を貸す理由はテレネッツァには無いはずだ。
(逆に、なんで手を貸そうとしてくれんだよ。アンタからすれば、ウチは勝手に魔力を使う盗人だぜ)
【危なかっしくて見てられないからよ。貴女も貴女の妹と仲間達も】
問い返したウチにテレネッツァは呆れを含んだ声音で返して来る。危なっかしいと語るテレネッツァには特に言い返せる言葉は無い。
危ない橋は散々渡って来たつもりだ。一歩間違えれば死んでた奴らが何人もいる。
(……妖精ってのはお節介なのか?聞いてる話と違うんだが)
【ミルディース王国の妖精だからこそよ。よその妖精なら貴女達が死のうが、この世界が滅びようが、どうでもいいでしょうね】
そんな連中の事をわざわざウチの知ってる妖精達は世話を焼く。妖精ってのはどいつもこいつも自分勝手の個人主義者みたいに聞いてたから、こいつらの行動は不思議だ。
どうにも、ミルディース王国っていう国にいる妖精が特別だってことみてぇだがな。
【で?どうする?私の手を取ってみる?】
(取ったらどうなんだよ)
【この状況、打破するだけの力と技術を教えてあげる。貴女になら出来るわ。保証する】
(アンタに何の得があんだよ)
テレネッツァに質問を投げかけ続ける。何故コイツがここまでウチを気に掛けるのか、何か目的があるのか。
思ったより、ウチは他人を信じない性分らしい。初めて知ったわ。
ウチ自身が気付いてなかった自分の性格に気が付いて薄く笑みが零れる。何かを期待してるのかも知んねぇな。
コイツがウチを変えてくれるってそんな何かを。
【得なんて無いわ。身体はとっくに死んでるんだもの。敢えて言うならただのお節介。姉としてリーダーとして、あっちに全てを置き去りにしてしまった私が同じ立場の貴女に出来る唯一の事】
(……)
【ここが二度目の殻を破るタイミングよ、アズール。そのキッカケを私は与えるだけ】
信用できるだけの何かを積み上げて来たわけでもない。それがウチとテレネッツァの間柄だ。それでも、コイツはウチに色々なモノを与えようとしてくれる。
なんでだ?って考えて、すぐ答えは出た。なんせそのまんまだからだ。
(それが、アンタの『優しさ』か)
【貴女も自然としてる事よ。だから私は躊躇いなく貴女に力を貸せる】
揃って、笑った気がした。勘だが、ウチはテレネッツァと仲良くやれる気がする。長い間、それこそ死ぬまでな!!
【これからよろしく頼むわよ、『相棒』】
(へっ、いきなりそれかよ『相棒』。まぁ良いけどな。――行くぜっ!!)
【EVOLUTION!! 】
Slot Absorberから響いた音声と共に私の足元に金色に輝く鈴蘭の紋章が浮かび上がった。




