不調
空気よりも遥かに高い圧力と抵抗の中を平時と変わらない速度で突き進んだ弾丸が貫いたのはウチの背後に忍び寄っていたクライスの烏賊足だ。
(ノワールの奴、一体何処から……)
あの特徴的な光は星属性の魔法だ。キラリと光って流星のように敵を撃ち抜く寸分違わないノワールの狙撃はどうやら水中でも同じように行えるらしい。
また光が数回瞬いて、クライスの烏賊足を次々と撃ち貫いて行く。
烏賊足を伸ばしていたクライスも流石にこれ以上のダメージは避けたいのか、ウチのそばから離れていった。
「ぎゃうぎゃう」
それと入れ替わりにノンがその巨体をいつになく素早く動かし、ウチを甲羅の上に乗せるようにする。
水中は姿勢制御が面倒だから助かる。下手すると上下左右すら見失うからな。
(ん?ははぁん?成る程な。準備が良い事だぜ)
甲羅に掴まり、姿勢を正したウチの袖を引いたのはノワールだ。
その頭と口にはゴーグルと小型のボンベのようなもんが咥えられてる。
短時間なら水中でもいられるようにしたのか。光さんの入れ知恵か?
他の面々ならともかく、ノワールはマジで水中での呼吸や移動方法が無いからな。海上で戦う想定ってなると、1番不利なのノワールにこの手の装備を充実させててもおかしくねぇわな。
(OK。5分だけだな。まずはまた海上に引き摺り出すか。4分の時点で浮上しろ)
指を5本立て、5分なら保つと示したノワールに指示を出す。5分水中にいられるからって、5分ぴったりいたら酸素が無くなるからな。猶予をもって行動させねぇと。
ノンにもどうようの指示を出して、いざとなれば一度戦線を離脱させる。
出来るだけ水中での戦闘は避けたいけどな。クライスの方が身体の構造上有利なステージになる。
ノワールは時間制限。ウチは怪我した頭を水中で放っておけば失血で御陀仏だ。
まずは海上に引き摺り出す。これが優先だ。
(それにしてもさっきのは一体なんだったんだ?メモリーも急に魔力の供給がいつも通りに戻って来やがった。原因が分からないのは勘弁してほしいぜ)
そしてさっきの極端に高い威力の出た攻撃がなんなのかだ。
ウチの感覚ではいつもよりも威力は低くなる程度の見積もりだったのが、急に『優しさ』のメモリーが魔力を寄越して来るから魔力の制御がブレた。
つったってあんなバカげた威力な出るもんじゃねぇ。供給が増えたところで精々威力が倍になるのが精一杯だ。
あんなの倍どころじゃないぜ。威力だけでみたら5倍はいってるだろ。どうなってやがんだ?
いや、自分のことなんだけどよ。
次に頭ん中に浮かぶのはウチらが海中にいる原因になっちまったあの一撃のことだ。
なんど思い返してもおかしな一撃だぜ。
(っと、考えてる暇はねぇな。さっさとクライスを海上にぶち上げてやるぜ)
薄暗い海底はクライスの姿を見つけるのにも一苦労だ。
だから暗い海の生き物は色んな工夫をして外敵や獲物を探し出す手段を持ってる。
(来たぜっ!!)
伸びて来た烏賊足をノワールが素早く撃ち抜く。烏賊は目で獲物を探す生き物だ。
視力が良いってのとは別で、暗い海中で獲物を探す事に特化したその目は間違いなく高いアドバンテージだろうよ。
だが運が悪りいな。こっちにはとびっきりの狙撃手がいるんだぜ。
そのアドバンテージは無いようなもんだ。
次々と烏賊足を撃って後退させるノワール。思ったように攻撃が出来ないクライスのその足の一本を掴み、思い切り引っ張ってやる。
(見つけたぜ!!)
姿を見せたのは未だ鎖に身体を貫かれたままのクライスだ。
大波のせいで鎖が海中に飲み込まれちまったみたいだが、おかげで自在に泳ぎ回るようなことは出来ねぇみてぇだ。
ラッキーだな。これで泳ぎ回られてたら厄介だったぜ。
すかさずノワールがズドンッと水中でも重く響く狙撃音が鳴らせ、クライス本体をブチ抜く。
容赦の無さはアリウム似だ。素早く次弾を装填して、狙いを定めるが、コイツはクライスがまた海中の暗闇に消えて行く。
こりゃ骨が折れるな。ノワールにゃ海上に上がってもらうの前提にしとくべきか。




