不調
どうせなら理想の方が良い。それはごもっともでその方が良いに決まってる。
問題はその理想ってのは叶えるのにとんでもなく難しいって事だ。
乗り越えなきゃなんねぇ壁がいくつもある。あり過ぎて回り道をしたり、他の方法を探した方が簡単。
だから、大人になればなるほど妥協する。このくらいで、この程度で、これ以上は。
理由を付けて、過剰な労力を回避しようとする。これは別に悪くないし、知恵がついたって事だ。
効率的とも言える。ただまぁ、命に関してはそうも言ってらんねぇわな。
アリウムが一切妥協を許さないのは、命は無くなったら元の形に戻せないからだ。
同じ命でも、人が違けりゃ当然別人だ。クローンを作ったって同じ人間は産み出せない。だから命は守んなきゃなんねぇ。
「自分を蔑ろにする奴は、他人も蔑ろにする。ってな」
「うん。誰かのために頑張るのと、自分を捨てて解決するのは全然違う。……ってママが言ってた」
「翔也さんにも言われたわ。ちと肩に力入り過ぎてたのかもな。サンキュー、ノワール」
柄にも無く考え過ぎてたみてぇだ。そんなつもりは無かったんだが、無意識か?
全員生きて返さなきゃなんねぇ、っていつものことだけど今回は特別そう思ってたしな。
それで自分が死んでちゃ世話無いな。
「よしっ、切り替え完了だ。だけどもうちっと無茶する。手伝ってくれ」
「分かった」
「ぎゃう」
バシッと頬を叩いて、頭を切り替える。リーダーで姉貴分がなよなよしてたら、最年少のノワールだって不安になるしな。
メモリーの不調がなんだってんだ。昔はメモリーなんてなかったんだ。援護を貰いながらなんとかすりゃ良い。
「いぃいぃぃっ!!!痛いっ?!あぁ、俺の身体をっ!!許さねえ……っ、アァァァアァァッッ!!」
「そら来たぞ!!構えろっ!!」
「うんっ!!任せて、全部アズールにとってベストな狙撃をするから。何処にいても当てるよ」
「ぎゃうーっ!!」
ノワールによって撃ち放たれた拘束用の鎖で貫かれたクライスが暴れ、その矛先をウチらに変える。
身体を貫いたままの鎖を手で手繰り、自分の身体を軸にしてウチらの方まで迫って来る様子はどう見てもホラー映画のそれだ。
あんまりな光景に顔が引き攣りかけるけど、ノワールの逞し過ぎる返事とノンの元気な咆哮にその悪寒は消し飛ぶ。
ちょっと前とは見違えるぜ。妹分がこんだけ根性出してんだ。姉貴分のウチがそれ以上を出さなきゃ姉貴じゃないぜ。
「『固有魔法』……っ!!」
鎖を辿って迫るクライスにこちらからも近付く。動いてるとはいえ鎖伝い、動ける範囲は決まってる。
一撃、確実に叩き込む。
「手ぇ貸せノン!!」
「ギャオォッ!!」
振り上げた『ヴォルティチェ』が海水を巻き上げて水の塊になる。そこから更にダメ押し。ノンのブレスをウチに向けて放たせる。
強力な水属性のブレスはこのまま行けばウチに当たる。後はウチの位置どりの問題。
『ヴォルティチェ』の一撃とノンのブレスを同時にブチ込む。
「ーーんっ?!」
そのために神経を使い、迫るクライスへと狙いを定めていると唐突にメモリーから大量の魔力が流れ込んで来る。
突然過ぎて驚いたウチはバランスを崩して、振り抜いた『ヴォルティチェ』の一撃はノンのブレスを絡め取り巻き込み、クライスには当たる事無く、海面を大きく吹き飛ばした。
「……は?」
「わっ?!」
「んぎゃっ?!」
とんでもない威力。海面を抉って波立たせるなら出来るけど、海面が数メートル単位で凹むような一撃を撃った覚えはまるでない。
バカげた威力に全員が目を丸くする中、発生した大波にもれなく全員さらわれる事になった。
「がぼぼっ!! (やっべぇっ?!水中戦はウチとノンはともかく、ノワールは完全に対応できねぇぞ?!)」
水中の中で泡を吹きながら、周囲をキョロキョロ見渡して、ノワールの姿を探す。
ウチはまだ水属性保有者なら覚えておくべき魔法の一つ、水中での呼吸をする魔法があるし、ノンはそれこそ亀だ。
肺呼吸とは言え、人間なんかよりずっと長く潜れる。
問題はノワール。星属性という特殊な属性を持つノワールは水中戦なんてカケラも想定してないはずだ。
先に見つけて海面へ引っ張り上げねぇと大変な事になる。
そんな暗い海中の中で焦っていると、キラリと光る何かが目に写り、ウチの背後目掛けて弾丸が飛んで来た。




