不調
身体に烏賊の足が巻き付き、デカい吸盤が鋭いトゲを突き刺しながら吸い付いて来る。
痛みに思わず声を上げかけるが、耐える。ここで苦しむ声の一つでも上げたらクライスが調子に乗るだけだ。
あぁいう調子付いてイキがるタイプには思い通りにさせないってのは重要だ。
他人を力で押さえ付けて、思い通りにするのがこの手の連中にとって娯楽で、そうならないのは面白くねぇからな。
「はっ、これがどうかしたのかよ?」
「けけケ、威勢ガ良いのを黙らせるのも楽しイもんさ。そのうち泣きワめいてーー」
「ぺっ。きっしょいんだよ。童貞だろテメェ。エロ漫画の読み過ぎじゃねぇか?」
あまりにも話がキモいから唾を吐き付けて黙らせる。
エロゴリラがよ。そういう視線向けて来てんのは分かってたけど聞けば聞くほど怖気がする。
【ノーブル】に入った理由もそういうおこぼれを貰うのが主目的レベルだろうな。
カス中のカスだ。何にしても犯罪者。豚箱行きがお似合いだぜ。
唾を顔面に吐かれ、嘲笑するウチの顔を見てしばらくしてから、バカにされた事を理解したらしい。
ぷるぷると震えたその後、烏賊の足を一本持ち上げ、ウチの腹目掛けてフルスイングして来た。
「かはっ……!!」
「調子にノるなよ魔法少女。立場ガ分かってないナら分かラせてやる」
ブンブンと四方八方から烏賊の足を使って殴り付けられる。
遠心力を目一杯使って振りかぶられてるのもあって、かなり重い。
殴られる度に頭が揺れて、口から食ったものが出て来そうになるが、全部耐える。
「……ハッ、おままごとかよ。殴って言うこと聞くのは犬でもいないぜ」
「ーーッ!!」
頭が割れたのか血がダラダラと垂れて来る。それでも強がって鼻で笑って挑発する。
目を真っ赤にして怒るクライスを目の前に私は笑って呟いた。
「立場が分かってねぇのはお前だよ。ウチ1人に集中してどうすんだよ」
その直後、クライスの烏賊の足の付け根。人間で言うところの腰の部分を目に追うのも難しい速度で飛んで来た鎖が貫いた。
「ア?ーーアァアァァァァっ?!?!」
身体を貫かれた痛みにクライスが暴れ回る。オマケで緩んだ吸盤の拘束を引きちぎって突破。
ノンの背中まで戻って、身体に引っ付いたままの吸盤を手で引っぺがす。血がダラダラ出てるが仕方ねぇ。
応急処置も難しいしな。
「アズールお姉ちゃん!!」
「おう、ノワール。最高のタイミングだったぜ」
「そんな事より怪我!!血だらけだよ!!」
『三◯式狙撃銃 Mk-Ⅱ』を担ぎ、駆け寄って来たノワールに軽く手を上げながら応えたらいつになく怒鳴られた。
アリウムに似て来たな。つっても応急処置をしてる暇もねぇ。作ったチャンスをモノにしねぇと。
「ノワール、ノン、合わせろ。決めるぞ」
「そんな血だらけで戦っちゃダメだよ!!」
「ぎゃうぎゃう」
フラつく身体を膝に手を当ててながら起こして立ち上がる。死んでも離さないと誓って握り続けていた『ヴォルティチェ』を担ごうとしたところで、ノワールとノンから猛抗議だ。
参ったな。まさかコイツらから待ったが掛かるとは。
「今のチャンスを逃すわけにはいかねぇだろ。折角こんな大掛かりな一撃ぶち込んでくれたんだ」
「あんな時間稼ぎの仕方頼んでない!!調子良くないならちゃんと言って!!ノワールが戦う!!」
「無茶言うな。お前に何かあったら……」
「アズールお姉ちゃんに何かあっても同じ!!」
逆に論破決められて何にも返せねぇ。参ったなホント。調子が悪いのはメモリーだけじゃないってか?
血で濡れた額を拭うと、ノワールが持って来ていた応急処置用の包帯とガーゼで雑に止血して来た。
時間が無いのはノワールだって百も承知ってわけだ。その上で、誰一人脱落する事ないのを望んでる。
「……そりゃ理想が高いってもんだぜ?」
「どうせ叶えるなら理想の方が良いってお姉ちゃん達が言ってた。ノワールは皆で帰るために戦うよ」
「……ははっ、そりゃその通りだな」
全くもって、だな。ド正論。大人になったつもりで何妥協案を探ってるんだか。




