不調
ガタガタ文句を言ってもしょうがねぇ。調子が出ねぇなら出ねぇなりの戦い方をするだけだ。
撤退なんて出来やしないし、援軍も然りだ。ルビーは大一番を終えたようだが、そこで魔力切れみたいだし、アメティアは雑魚の掃討に注力してもらってる。
自慢の妹達だ。ルビーはとんでもねぇ火力でバハムートと殴り合って勝ってるし、アメティアも調子良く戦えてる。
才能だけならウチより確実に上の2人。心配する事は一つもねぇ。
「むしろ援護貰ってるだけマトモな方だな。無かったらと思うとゾッとするぜ」
ノワールにノン。1人と1匹の援護を貰えるだけ、ウチの状況はマトモな方だろ。
だからこそ、手早く他のメンツの援護に回るべきだってのにこの体たらく。
情けねぇったら無い。
「おらよっと!!」
「グギャギャ!!」
海水を巻き上げ、『ヴォルティチェ』に纏わせてから重さでクライスを叩く。
複数本ある上に柔軟性のある烏賊の足は打撃も斬撃もイマイチ。
オマケに再生能力もあると来たもんだ。ウチみたいな物理ファイターには相性が悪い。
前みたいなただの筋肉ダルマなら幾らでもやりようがあったんだがな。
ウチが海水を使って戦えるとは言え、今のクライスほど自由自在に泳げるわけでもねぇし、挙げ句の果てに空中も飛び回りやがるからな。
陸海空、全部に対応した魔獣って意味ではそれぞれに適応して、そこで圧倒的だったかつてのS級魔獣よりも厄介かも知れねぇな。
「グゲげ、ドうした?その程度カ?」
「喋るんじゃねぇよ気持ち悪りぃ」
ウチを翻弄出来て気分が良いらしいクライスがノイズが混じったような声で話し掛けて来る。
マジで明らかに知能が上がってやがる。以前なら会話もクソも出来なかった筈だ。
声質こそおかしいが、どもりもせずに会話が出来るってのは人間としての意思が戻ってやがるのか?
「【ノーブル】の連中に好き勝手サレたが、ヨウやくマトモになった。ショルシエの能無シめ、俺を実験材料にしやがッテ。だガ、都合は良い」
ニチャァと体格に反して小さ過ぎる頭。そこにある表情が今まで見た事無いほど、表情豊かに気持ち悪く笑う。
湿度の高い、明らかにゲスな思考をしてる時の碌でも無いクズの顔だ。
16年しか生きてないが、流石に分かるぜ。気持ち悪い事考えてるクソ野郎の顔だ。
「散々魔獣と掛け合わさレて得た力。やっと使えル。これだけノチカラ、お前ラ魔法少女にも通じる」
「ほざけよ。バケモンになったお前はここで倒される。ウチが負けても、袋叩きにされるだけだぜ?」
「やりよウは幾らでもアるさ」
笑みを深めるクライスがもう一度烏賊の足を伸ばしてくる。
さっきまでよりも数段速いスピードで迫るそれを何とか捌き、距離を取る。
案の定手加減してやがった。さて、どうすっかな。調子の悪いウチと、準備中のノワール。そのノワールを背負ってる都合、動きが制限されてるノン。
「ま、時間稼ぎしかねぇか」
ウチを追って来る烏賊の足を見ながら、すぐに判断せる。調子が悪いは言い訳だ。
やれる事やらねかったら何のために此処に来たんだってな。
『ヴォルティチェ』で海面を叩き、飛沫を上げて視界を遮る。
今までの動きの中で、奴は特に視覚に頼って動いてる。そこを使わねぇ手は無い。
そのまま何方向にも斬撃を飛ばして飛沫を上げさせる。そのうちの一つに紛れて奴の視界から外れて、力を溜める。
やっぱり魔力の動きが鈍い。いつもの感覚よりも手応えの無さを感じつつ、『ヴォルティチェ』を振り抜いて、海水と斬撃を織り交ぜた一撃を打ち込んだ。
「例えバお前を倒していたぶっテから、人質にデもすれば良イ」
そのつもりが逆に背後を取られていた。咄嗟に【ヴォルティチェ』を振り撒いた反動を止めずにそのままの勢いで身体ごと反転させて殴ろうとしたけど、ブヨブヨの烏賊の足が束になってそれを止める。
「捕まえたゾ」
粘着質な笑みに、生理的な嫌悪と過去一のピンチ。顔を引き攣らせる以外にウチに出来る事はなかった。




