何処かで芽吹く不屈の話
「――パッシオ!!状況説明!!」
「うわっ?!急に起きないでよ?!」
「施設が突如崩壊を始めました!!今すぐ脱出しなければ全員海の藻屑です!!」
意識が戻り、抜けていた身体に力が入る。大急ぎで移動している事を察して、パッシオに説明を求めるけど、返事をしたのは並走するカレジだ。
周囲を見れば私達を追いかけるように壁に亀裂が走り、背後からは大量の水が迫っている。何故こうなったのかは分からないけれど、最悪の状況なのは分かる。あんな濁流にのみ込まれたら妖精だろうと魔法少女だろうと一巻の終わり。ただの人間の愛菜さんなんて顔を青くしている。
「もっと飛ばして!!」
「もうしてる!!」
もっとスピードを上げないと迫りくる濁流には飲み込まれる。もっとスピードを上げてと指示するけどパッシオのスピードはもう限界。私一人ならカレジに乗るんだけど、3人もいるとなるとどうしても分かれて乗るしかない。
どうしようかと頭を悩ませ、愛菜さんから目的のエレベーターまでどのくらいなのかを問う。
「このスピードならもう少しだけどっ。エレベーター操作中に飲み込まれちゃうわよ!?」
「了解です。それならどうにか出来ます」
辿り着けるなら問題ない。真広とアイコンタクトをして、頷き合う。タイミングはこっちが合わせる。任せたわよ。
「真白ちゃーん!!」
「無事かーっ?!」
脱出案を検討していると横の通路から猛スピードで聞き覚えのある声が合流する。グレースアとフェイツェイだ。二人とも無事だったみたい。
猛然と飛ぶフェイツェイの両手にはグレースアともう一人の姿も見える。
「シャグラン!?」
「コイツの事か?道中でうずくまってるのを拾ってな。【ノーブル】の関係者でも見捨てるのは寝覚めが悪い」
「こういうところがフェイツェイっぽいよね」
逃げる道中で拾ったらしいシャグランは私と別れた時と同じ、無気力な状態だ。半分意識を失っているのかも知れない。
ただされるがままにフェイツェイの腕に抱えられている様子は、【ノーブル】を牽引したボスだとはとても思えないくたびれた姿だった。
見るに堪えないその姿に思わず眉根を寄せるけれど、同時に都合が良いとも思う。彼は償わなくてはならない人間だ。同時に救われるべき人間でもある。
こんなところで海の藻屑になるべきではないし、させるわけにはいかない。
そういう意味ではラッキーだし、フェイツェイの行動はグッドだ。
「見えたよ!!正面のアレ!!」
「エレベーターか!!」
「グッドタイミング!!流石は真白ちゃんだね!!」
「どういう意味?!」
人を幸運の象徴みたいな扱いをしている気配がある。そんな青い鳥みたいな珍獣扱いは勘弁してほしい。まぁ、実態はマスコットなんだろうけどどっちもどっちだ。
ともかく、人数も揃っていよいよ脱出準備は万端だ。まずはフェイツェイとグレースアに先陣を切ってもらうとしよう。
「こじ開けて!!」
「任された!!」
「OK!!」
エレベーターに乗っている時間は無い。なら、最初から乗らない方向で話を進めれば解決だ。その方が手っ取り早いし、何より操作と動作の確認をしなくて済む。時間が無い中でやる以上は荒っぽくてもタイムロスは少ない方が良い。
フェイツェイが扉を斬り裂き、グレースアが扉の残骸を氷での雑に破壊する。そこに一斉に飛び込んだ私達は跳び上がって真広が広げた岩盤の上に乗る。その隙間を私が障壁で埋めて、後は衝撃に備えるだけ。
「なにするのこれ?!」
「ひっくり返らない事を祈っといて!!」
制御はするつもりだけどね!!
ビビるグレースアを他所に、ズンッという衝撃と共に私達が乗った岩盤がものすごい勢いで持ち上がっている。これを押し上げているのはさっきまで私達を追い立てていた大量の海水だ。
海底にあった施設に海水が流れ込むという事は当然、エレベーターが通る筒状の縦穴にも海水が流れ込む。
水は重力やら諸々の影響の都合、同じ場所まで水面が上がる。底の抜けたバケツを水に沈めると、バケツの内と外の水面が最終的に同じ高さになるのと同じだ。
今、私達の足元ではそこの抜けたバケツを無理矢理水に沈めている時の強い水流が私達が足場にしている岩盤ごと押し上げているという訳だ。
それをエレベーターが本来通るはずの空間を丸々レールのように使って、無理矢理に上への推進力に変えている。
ハチャメチャなスピードに各自大絶叫を上げ、迫るエレベーター通路の上部。
「障壁貼るから各自上の吹っ飛ばしてっ!!」
「いつになく雑!!」
「緊急時なんだから文句言わない!!」
がたがたと文句を言うパッシオの背中をぶっ叩き、衝撃に耐えるための障壁を私達を囲むようにして張ったところで、至近距離で各自の攻撃魔法が炸裂。
天井部分を吹き飛ばし、ついでに私達の身も投げ飛ばす形で、私達は【ノーブル】の海底施設からの脱出に成功した。




