花結びの園
泣き叫びながら訴えた私の姿を見て、父は少なからずの衝撃を受けたようだ。呆然とした表情で立ち尽くし、やがてハッとした表情へと変化し俯く。
「本当に、俺はダメな親だ。……いや。そうじゃないな」
俯き、顔を覆っている父はそう呟き。その呟きも訂正する。首をふるふると降ってから改めて顔を上げた父は、後悔と懺悔に苦しむ表情ではなく、憑き物が落ちたような少し晴れやかな顔になったように私には見えた。
「自分を下げることで許しを得ようなんてそれこそ馬鹿げた話だ。お前にとって父親はただ一人。どんなに険悪な仲であったとしても、俺から親を辞めるかのような発言はもってのほか、だな」
「私にも、そう思わせてしまった原因はある。私もお父さんに相当酷いことをしたし、言った。でも、それでも、私はお父さんの子供を辞めたいとは思ってなかったよ。勘違い、見当違いの憎悪を向けていても、私はお父さんの子供」
それこそ私はとんだ親不孝者だ。いくらされるべき説明が無かったとは言え、親に向けるべきではない態度、暴言、感情を抱き続けた。
逆にお父さんはそんな私に対してよく何も言わなかったと思う。
お父さんだけが悪くない。私にも原因がある。切っても切れない親子の縁。書類上や法律上では切れても、決して覆らない親子の血。
どれだけ私がお父さんを嫌っても、その縁を切ろうとはしなかったのはやっぱりお父さんを何処かで尊敬していて、本当は何か事情があることを何となく理解していたからだと思う。
その何かを私から引き出す勇気が無かった。これは私の怠慢で、お父さんの怠慢。
どっちがどっちではない。きっとどっちも悪くて、どっちも悪くない。
「ありがとう。俺の自慢の子供だ」
「ありがとう。私が誰よりも尊敬するお父さん」
だから、向ける言葉は謝罪ではなく感謝。これで長かった親子喧嘩はお終いだ。
「話にケリは着いたか」
「うん。これでお終い」
「そう、良かった。二人とも意地っ張りだから、変にケンカにならないか心配だったの」
「心配をかけた。だが、もう大丈夫だ」
近くで行く末を見守っていたシャドウと母は安心したように肩を撫でおろしている。本当に迷惑ばかりを掛けたと思う。
特にお母さんは『母』のメモリーの中から『イキシア』を通じて外の世界を感じ取っていたような発言が以前あったし、心配ばかりをかけてしまった。
「さて、話を本題へと移そう。あまり時間は無いんだろう?」
「話したかった事は最低限話せたかな」
仕切り直しをする父に同意して、進行を促す。母とシャドウも何やら話し込んでいたし、丁度いいと言えばその通り。
時間も有限だってのは最初から分かっているしね。むしろ私とお父さんの和解の時間をそれとなく用意してくれたのだろうお母さんには感謝しなきゃ。
「で?わざわざ俺まで此処に連れて来た理由はなんだ」
「それに関してはシャドウとお母さんを会わせるためだけだから……」
「おい」
シャドウをここに連れて来た理由と言えば、彼に母の存在を認知してもらうためだ。シャドウは人工的に作られた命だ。それを彼も理解している以上、どうしても親子という関係そのものへの理解が薄いと思う。
これは勉強で理解出来るものじゃない。実際に触れあって、話し合って初めて無意識に感じ取るものじゃないかな。
だから、親を知らないシャドウに母親の存在を知ってもらい少しでも触れ合って欲しいという私なりのお節介だ。
散々敵対したけれど、好敵手という関係であって、怨敵のような関係で無かったことはラッキーだった。これが少しでもズレていたら私はシャドウを受け入れられなかっただろうし、シャドウも私達を受け入れられなかった。
都合が良いとさえ思えるくらい、幸運な事が続くと思う。私の事と言い、シャドウの事と言い、他にも色々な事でね。
「ったく、お節介な姉だ」
「悪くないでしょ?」
「調子に乗るな。また話が反れる。さっさと話せ」
おっとっと。悪癖だねホント。家族としてこうやって全員で集まれるなんて事があるなんて、思ってもいなかったから舞い上がってるみたい。
お父さんもお母さんも嬉しそうだ。ブツブツ文句を言うシャドウだって、別に嫌がっている訳じゃない。思春期男子特有の気恥ずかしさ、的な感じに思う。可愛いなコイツ。
「よしっと。……お母さん、聞きたい事があります」
「なにかしら?」
「『摂理を弾く倫理の盾』の使い方を、教えてください」
神具『摂理を弾く倫理の盾』の使用方法。ここに来た本題を、それを知っているはずの母へと、問いかけた。




