花結びの園
『摂理を弾く倫理の盾』。
妖精界に3つあるという『神具』と呼ばれるそれを私は手にしているハズだ。恐らくは今はパッシオに預けている鏡のペンダントトップがそれ。
だけれど、私はそれを発動することは出来ずに今ここまでやって来ている。
間違いなく特別な操作が必要。それを知っているのはミルディース王国王家、その中でも直系。しかも王になった者だけが先代の王から受け継ぐ。
そんなレベルの機密。王にだけ許された特権。
「それがどういう意味を持つか、貴女は理解している?」
「……一応」
今までの優しい眼差しではなく、強く鋭い眼差し。娘に向けるものでは無く、一国を背負う王が放つ気迫は私に強い圧力をかけて来る。
そりゃそうだ。次代の王にしか継承を許さないだろう『神具』の使用方法を娘とは言え、王になることは無い小娘が生意気にも要求しているんだから。
もし、ミルディース王国が健在であって私が仮に王女だとしたら、この場で叱責どころではない罰を与えられてもおかしくはない。
機密とはそういうものだし、王にしか許されていない特権は王にしか許されてないから特権なのだから。
「……本当なら、そんな事を女王である私に向けている時点で懲罰を与えられてもおかしくありません。国家を脅かそうとしているとも、王の座を奪い取ろうという意味にも取れますからね」
「それは分かっているつもり。でも、必要な力だから。使えるのなら使いたい」
親子で会ったとしても、国家を運営するにあたっては王とその他に過ぎない。何万、何百万何千万。何億。
ミルディース王国がどれだけの規模の国家だったのかを私は知る由も無いけれど、それでも民を抱える国だ。そして母はその国の女王。
個人の願望のために王家の秘宝を使わせろ。なんて誰が聞いてもおかしな話だ。でもそれで変えられる何かがある。それを持っているか持っていないかで、切り札として確保することで取れる手段が丸で違う。
大目玉を喰らう事は最初から覚悟の上だ。
「……」
「……」
無言で見つめ合う私と母。その横では似たような腕組みポーズで並んでいる父とシャドウの姿がある。少し面白いから止めて欲しい。似た者親子め。
「……ふぅ、それだけの覚悟があるのなら良いでしょう。そもそもにミルディース王国は私の代で滅んでいますからね。貴女の好きなように使いなさい」
「――っ!!」
「ただしっ!!人を害するために使う事、誰かにペラペラと喋ることなどは言語道断です。貴女はそんな事をすることは無いとは分かっていますけれどね」
「肝に銘じておきます」
ため息一つの後に、母はそう言って私に『摂理を弾く倫理の盾』の使用方法を教えてくれる許諾してくれた。
もとよりミルディース王国が滅んでしまっていることも大きいだろう。そして、私が現時点では妖精界に戻るつもりは無く、人間界で人間として生きて行くと分かっている。
恐らく、『摂理を弾く倫理の盾』は私の代で失われる。そしてミルディース王国は復活することはない。
何故ならば、ミルディース王国は既に滅んでいるからだ。一度滅び、政治体制や法律、その他インフラなどが崩壊した国は国民や王家が再び立ち上がり、復活をさせようとしたところで、その国はもうミルディース王国ではない。
国は割れ物だ。壊れたら二度と同じ形にはならない。もう一度、基礎から作り直さないといけない。そうなれば、王政で無くなるかもしれないし憲法だって変わるだろう。
そしてらもうそれはミルディース王国ではない。ミルディース王国の流れを汲み、再び国民をまとめ上げた別の国だ。
母も女王としてそれは理解しているのだろう。最後の王とその子供。
そして王の特権であった『摂理を弾く倫理の盾』。その最期の行く末を私に委ねても良いのか。
母の慧眼に私は何とかかない、『摂理を弾く倫理の盾』の使用方法を伝えられる。
「そりゃわかんないよ」
「王家としての正式名だしね。あ、小野と諸星も足して良いわよ」
「意外とアバウト」
「どちらかと言えば重要なキーは血筋の方だから」
母に教えてもらったそれを聞いて、私は肩を竦める。どうりで起動の一つもしないわけだ。そもそも魔法発動のそれとは全く段取りが違う。
単純だけど、じゃない簡単ではない。そもそもの前提条件のクリアがまずほぼ無理だ。
……ショルシエは『神具』を欲していたけれど、どうやって使うつもりだったのだろうか。そもそも彼女には絶対使えない仕組みになっているのだけれど。
新たに浮かんだ疑問を頭の片隅に納めつつ、母のレクチャーをしっかり脳内に叩きこむ。ここ一番で使えなければ宝の持ち腐れだ。
「さて、真白に教えることは教えたし、最後にシャドウ君にも話をしないとね?」
「俺?」
「だっていつまでもシャドウなんて名前を名乗る訳にはいかないでしょう?」
レクチャーを受け終わり、頭の中にしっかり叩き込み終えると話の主役はシャドウへと移る。なにやら母の企みの予感が垣間見える。サプライズが好きだったからなぁ。




