花結びの園
話したい事は山ほどある。沢山話をして、色んな事を報告して、そして謝らなきゃならない事があり過ぎる。
でも時間は有限だ。全部は話せないし、何より今は急いでいる。聞く事を聞いて、最低限のことだけを話すべきだろう。
本音をギュッと押さえ付けて堪える。それが、私がしなきゃいけないこと、やるべきことだから。
「……本当に立派になったわ。ずっと誰かにべったりくっついてた甘えん坊だったのに。強くなったのね」
「うん。皆がいるから」
「大事な仲間で、友達で、家族だものね。その繋がりは貴女を強くする。忘れちゃダメよ?」
コクリと母の忠告を受け取り、胸に刻み込む。繋がりこそが私の力。
ひとりぼっちで戦おうとはもう思わない。それだけのメリットもあるし、何より皆でいれば何が来ても大丈夫だって思ってるから。
「シャドウもよ。ひとりぼっちは貴方を弱くする。誰かとの繋がりが貴方を強くする。自分一人でどうにかしようとするんじゃなくて、誰かを頼って頼られて皆で強くなるのよ」
「……分かった」
「素直で良い子ね」
母がシャドウの手を引き、屈ませると頭を優しく撫でる。少し恥ずかしそうにするシャドウだけど、手を振り払うようなことはしない。
シャドウにとっては初めての親からの愛情だ。彼にはまだわからない感情でも、いずれわかってくれるだろう。
嫌がらずに受け入れてる優しさがあるなら、何の問題も無い。
「本当に立派に育った」
「お父さん」
近付いて話し掛けて来た父を見上げる。短く切り揃えられた髪と、銀フレームのスクウェアタイプの眼鏡。整えられたあご髭は生前の私の記憶している父の姿だ。
40代後半になっても端正で、大人の渋さが出て来た父は女性スタッフからは評判が良かったことを思い出す。
「その、なんだ。随分と母さんに似たな」
「色々あってね。元からお母さん似だったとは思うけど、今は更にかな」
「あと、えっと、美人になった」
「相変わらず口下手。でも、ありがとう」
しどろもどろで典型的な口下手な口調で喋る父。さっきまで流暢に喋っていたのに、私相手だとこれだ。
お互い、理由は分かってる。長年不和を続けて来た相手とどう話して良いかなんて分からない。
実際、私も分かっていなくて、この後の会話になんて言葉を続けたら良いのか全然浮かんで来ない。
「……」
「……」
二人して黙ってしまい、気まずい空気が流れ始める。こうなると更に切り出しにくい。
それでもせめて一つだけは伝えなければならないことがある。そのためにバクバクと鳴る胸の鼓動を押さえて、口を開こうとした時。
「良いんだ真白。君は謝らないでくれ」
首を横に振り、父は私に謝らないでくれと願う。何故なのか。父を一方的に悪者にした私は謝罪をするべきだ。
私が深めた溝は私が埋めるべきだと思っていた事を止められ、どうすべきなのかいよいよ分からなくなる。
困った様子を見せる私に、父はそっと私の頭に手を乗せ「相変わらず優しいな」と呟く。
「謝らなければいけないのは俺の方だ。俺は真白のその優しさと強さに甘えた。お前に真実を話す事もせず、お前なら大丈夫だと勝手に判断して、何もしてやれなかった。する勇気が無かった。一人で育って行くお前を見て、これで良いと逃げた」
許して欲しいなどとは言わないと、父は告げる。その表情は本当に後悔をしている顔であり、悔しさと悲しさと情け無さと。
色々な感情が混ざり合って浮かぶ表情。父が見せる初めての表情に私は泣きながら、首をぶんぶんと横に振る。
違う。突き放したのは私だ。ちゃんと冷静に話し合えば、嫌悪するのではなく向き合えば良かったのに。
逃げたのは、私だ。
「父親として、失格だ。申し訳ーー」
「違うっ!!失格なんかじゃない!!」
頭を下げようとする父を見て、自分でも驚くくらい声を張り上げる。
驚く父をよそに、私は湧き上がる感情のままに叫び散らす。
「ずっとずっと憧れてた!!誰かのために誰かを必死で助ける姿に憧れてた!!医療人として尊敬されてるお父さんを尊敬してた!!私もっ、お父さんみたいになりたかった!!」
心の奥底にしまっていた。伝えられなかった言葉。
ずっとずっと、父の背中を見て育った私が父を尊敬してないわけがない。
「だから同じ医療人になった!!もっと多くの人に寄り添えるように、私は看護師を選んだ!!嫌いだからでも!!同じ道を選びたく無かったからでもない!!」
だから。
「お父さんが最高の医者だったから!!最高のお父さんだったから同じ道を選んだ!!失格なんかじゃない!!」
父親失格だなんて言わないで。




