何処かで芽吹く不屈の話
シャドウ、何より愛菜さんの案内により私達は割と順調に歩みを進めていた。
「ちっ、こうも進路を妨害されると厄介だな」
「だからと言って強行突破はね。出来れば温存したいし、愛菜さんの体力が限界だよ」
順調に、と言うのは通る通路に蜘蛛型の魔獣が巣を張っている事が多いのと、唯一の一般人である愛菜さんの体力がここに来て限界に来たという事にある。
蜘蛛型の魔獣は今まで出会ったタランチュラ、或いはハエトリグモのような高機動に走り回って獲物を捕らえるタイプではなく、私達が蜘蛛と言われて思い浮かべる糸を使って巣を作るタイプの蜘蛛だ。
それらが通路を塞ぐように数十体が巣を作っている。この巣が厄介で、かなり粘着力が高くて耐火性があるみたい。
燃えにくくて絡みつく糸はうっかり身体についてしまうとその振動が糸を伝って蜘蛛の魔獣達に伝わって、一斉に蜘蛛の糸を吐き散らしながら襲い掛かって来る。
それでさっき、シャドウが危うく餌食になるところだった。慌てて障壁で蜘蛛たちを遮断してべとべとの糸まみれのシャドウを愛菜さんと二人掛かりで通路から引っ張り出した。
おかげでしばらく糸が絡みついて本当に鬱陶しかった。愛菜さんと取り合ってようやくマトモになったくらいだ。
「ごめんなさい。まさか急に腰が抜けちゃうなんて……」
「むしろ今までよく頑張りましたよ。鍛えてるシャドウと、魔力で補助してる私に合わせさせてしまって逆に申し訳ないです」
「文句を言っても仕方が無いしな。俺たちも今後どうなるか分からない以上、体力も魔力も温存したい」
そしてシャドウに背負われている愛菜さんは無理をして私達に合わせていたせいで完全に体力切れ。申し訳なさそうにしているけど、男の子で身体をしっかり鍛えている上に魔力の補助もしているシャドウと、魔法少女として膨大な魔力を体力の補助に回せる私。
対して愛菜さんは補助が一切ない完全な一般人。今から余ったSlot Absorberで補助をしても切れた体力が戻る訳でもないし、そもそもSlot Absorberやメモリーに相性があることも分かっている。
魔力に関してなんの訓練もしていない愛菜さんがいきなり妖精の魔力が籠ったメモリーを使うのはリスキーだった。
「一応、前には進めている。時間はかかるが確実な方法で行こう。幸い、水分や携帯食料はある」
「持って来たの私だけどね」
最短距離は進めないけど先には進めている。急がば回れで行くのが最善と判断した私達は、ペットボトルの飲料水を口に含みながら、次の順路を探っていた。
「誘導されてる可能性、あると思う?」
「無いとは言えん。だが哺乳類を元にした魔獣なら意思を操ってコントロールすることは出来るだろうが、大よそ意思があるとは思えない虫の魔獣がコントロール出来るとは思えない」
「ショルシエが開発した魔獣や人間を操る魔法は身体に紋様を彫り込まなきゃいけない仕様だし、あれは意思を封じ込めて、紋様から発する偽物の意思でコントロール権を奪う技術だから、意思があるような知性が無いとそもそも操作が出来ないはずよ」
成程。ショルシエが開発したあの魔獣、人間、妖精を操る紋様はそういう仕組みか。
何でもかんでも操作出来る訳じゃなくて、意思がある生き物の意思をハッキングして体の主導権を奪う。
仕組みを簡単に言うならそういう仕組みだと思う。ただ、前提条件として意思というある程度の知性が求められる。
意思と言うよりは本能で活動するだろう虫をコントロールするのは難しい。だから街を襲うのには利用してこなかった、という訳だ。
「どのみち進むしかない。迎えを待つだけのタイプでは無いだろう?」
「勿論。迎えは呼んだから、来てもらわないと困るけど、無理難題なのは百も承知だしね。私も努力しないと」
「……こうしてみると本当に姉弟ね。思考のロジックの組み方とか喋り方、そっくりよあなた達」
背負われる愛菜さんに茶化されながら、私達は地道に通路を進んで行く。戦いから発されてると思う振動が随分少なくなった。
各地で決着がついているのかも。気持ちは焦るけど、確実にやらないと。
もう一度、ペットボトルの飲料水を口にして汗を拭って私達は歩みを進めた。




