二人で百人 / 凍風刀華
息を大きく吐き出し、意識を研ぎ澄ます。構えは基本中の基本、正眼。力み過ぎず、ただし刀身はブレることなく真っ直ぐに構える。
この間にもショルシエは近付いて来ているが、集中し過ぎているのか奴の動きがコマ送りのようにゆっくりと動いているように見える。
一挙一動、隈なく観察し最高の一撃をぶつける。私が最も得意とする戦い方、カウンター。それが最後の一撃だ。
ゆっくりと進んで行く体感時間の内にグレースアに任せている魔法面のコントロールにおいてもその精度と濃度が上がって行くのを感じる。
条件は揃った。後は私が確実に仕留めるその瞬間を見極めるだけ。
「「すうぅぅぅ……」」
もう一度した大きな深呼吸。研ぎ澄まされた集中力、高まった魔力。迫りくる巨大な狐に似た姿で迫るショルシエ。
その巨体が私達を射程に捕らえ、ひと振りで魔法少女数人は容易く殺せるだろう魔力を纏わせて、残った右前脚を振りかぶる。
此処だ。直感でそう判断した。失った左前脚が無い中で右の前脚を振りかぶるには後ろ脚で身体を支えるしかない。四足歩行の獣型の姿で後ろ脚二本で立つことを余儀なくさせられる。
それはつまり、胴と胸をがら空きにするという事。妖精はどうだか知らないが、この世界の陸上哺乳類なら弱点を晒す行為だ。
この隙を逃さず、いつ最高の一撃を叩き込む。
言わずとも察したグレースアが魔力を更に高める。吹き荒れる暴風と凍てつく氷が周囲に漏れ出し、一歩踏み出す。
「「『三重固有魔法』」」
私の風、グレースアの氷、高嶺流の剣技。3つの要素が混ざり合い、一つの固有魔法になる。
『翠嵐』の刀身に魔力が凝縮され、追随する『ネーヴェ』はその形を『翠嵐』と同じような長さを持った刀身へと変える。
合計7振りの刀身が閃き、私達はそれら振るう。
「「――頭を落とせ、『翡翠・凍椿』」」
7つの刀身は迫りくるショルシエの右前脚を斬り裂き、凍り付かせる。胸、腹、胴、右後ろ脚、左後ろ脚、尻尾と叩き切り、その全てが凍り付く。
最後に飛び上がり、ショルシエの首の後ろ目掛けて、7振り全ての刀身が振りかぶられ。
「これで終わりだ。『災厄の魔女』」
その首を斬り落とした。
「ふう」
「お疲れ様」
「あぁ、お疲れ様」
ショルシエの首を斬り落とし、床へと着地した時点で自然とグレースアとの合体状態が解除される。どうやらグレースア自身が意識して解除したらしい。
空中にポンと飛び出た『凍結』のメモリーをキャッチしながら、お互い労いの言葉を掛ける。
敵を前にした油断ではない。確実に倒したという確信から来た行動。全身を切り刻まれ、凍り付いて尚生きているのなら、それはもう生き物ではない何かだろう。流石の妖精でもそれは無い。
「――おのれ……、魔法少女如きが。またしてもこの私の道を閉ざすというのか」
「……まだ生きていたのか」
「ゴキブリみたい」
グレースアの表現は流石にあれだと思うが、本当にゴキブリ並みの生命力だ。身体を切り刻まれ、凍り付いてなおまだ喋れるのか。
驚き振り向くがそれまでだ。あのショルシエも流石に今の一撃を耐えられる訳も無く、唯一抵抗しているのか、地面に落ちた頭部だけは凍り付くのが遅かった。
「クククッ、だが忘れるな魔法少女。私は諦めぬ。二つの世界を喰らい尽くすまでは、決してな。ククク!!ハハハハ……――」
だがそれまでだ。ゆっくりとその頭部も凍り付いて行き、恨み節のようなモノを遺していくショルシエを私達は奇妙なものを見る目で見つめながら、その最期を確認する。
やがてすべてが凍り付き、砕け、バラバラになって行き。ここに『災厄の魔女 ショルシエ』は完全に死んだ。
「さて、真白達と合流して帰るか」
「うん。皆待ちくたびれてるか――。きゃあっ?!」
「うおっ?!」
無事に戦いを終え、真白や他の皆と合流しようと一歩目を踏み出したところで床が激しく揺れる。
地震だとかそんなものじゃない。何かが暴れまわって地面を揺らしているかのようなハチャメチャな振動に私達は困惑する。
「ゴギャアアアアァァァァァァァァッ!!!!」
「なっ、まさか?!」
「あの氷、全部今ので砕いちゃったの?!」
鼓膜が破れる程の大咆哮。その震源地はどう見ても近くにあった『大海巨鯨 リヴァイアタン』が眠る巨大なプールの中。
部分的にとは言え、凍り付いていたはずのそれが砕け、その中で何かが暴れまわっているのが見える。
間違いない。S級魔獣『大海巨鯨 リヴァイアタン』が目覚めたのだ。最悪なタイミングで。
「逃げるぞ!!施設自体が壊れる!!」
「う、うん!!」
大暴れするリヴァイアタンのおかげで、施設内の床や壁、天井にまで亀裂が入り始めている。
海底にある施設でそんな事が起こったら、何が起こるのかは簡単な事。
グレースアを抱え、飛び立つと大急ぎで海底を出るべく壁に激突しない全速力を出す。全員間に合うと良いのだが、そんな悠長なことを言っていられる余裕は生憎ない。
「き、来たぁ!!」
「喋るな!!舌を噛むぞ!!」
背後で聞こえる濁流の音に半べそをかくグレースア。限界までスピードを出して飛ぶ私は、必死だった。




