二人で百人 / 凍風刀華
『翠嵐』が透き通った刀身に変わり、その全長が伸びる。
籠手や脛当てなどの防具類は大きく変化はないように見えるが、色が涼やかな水色に変化している。
大きな変化は両側の腰に下がった小太刀か。左右合わせて計6振りもある氷の小太刀はグレースアの魔法具『ネーヴェ』だとすぐ理解する事が出来た。
「それもだ!!なんなのだ貴様らは!!それは魔法もSlot Absorberも!!貴様らが作った技術ではない!!何故貴様らの方が高い性能を引き出している?!」
「「私達が知ったことじゃないよ。敢えて言うなら、優れた開発者は優れた使い手ではない、ってことくらいじゃないか?」」
グレースアと私の声がダブって声を発していることに驚きながら、私達はそれそれの意見を口にする。
一つの口で二つの声が同時に出て来るのはかなり珍妙にも思えるが、私自身、グレースアと共にいる事を感じているので違和感はそこまでない。
「お前達の方が優れているとでも言うのか!!この私より!!」
「「別にそこまでは言ってないでしょ。お前は優れた開発者であり、凶悪な侵略者であったが、私達は魔法や技術の理解が得意だった。というだけだ。単純な優劣ではない」」
三つ星シェフがA5ランク牛の飼育が出来ないように、名刀を打つ刀鍛冶が武芸に秀でた侍ではないように。
作る者と使う者は必ずしもイコールで繋がるわけじゃない。
作り上げる技術と使いこなす技術は全くの別物だしな。たまにどちらも出来る天才がいるが、それは例外だ。
「「そもそも才能だけで優劣は決まらない。どれだけ努力をして、結果を出せたかだ。その結果すら、時と場合によるしな」」
その時は最高の結果でも、年月が経てば最悪だったと言われる事もある。
結局のところ比べて優劣をつけても、結果が出てもそれで満足してたらそこで止まる。
完璧なんてこの世にありはしない。100%の結果は出せない。
ただ完璧に近付ける事は出来る。その近付く方法が努力であり、効率を上げてくれるのが才能だ。
「「貴女は自分の事を完全無欠みたいに思ってるみたいだけど、私達からすれば中途半端」」
「「前にも言ったがな。自分を完璧だと思っている奴ほど足元を掬われる。優劣じゃない。努力を怠った半端者に、努力を続ける私達は負けるつもりは毛頭無いってだけだ」」
完全無欠な存在はいないし、完璧な結末なんてありはしない。
それでも、理想を追い求める事を止めなかった人間を私達は1人知っている。
辛く悲しい過去があっても、困難に直面しても、過酷な環境にいても。理想と現実の差に一度心を折られても。
「「どんなに貴様が無駄だと喚いても」」
「「どれだけ力の差が歴然でも」」
それでも、真白は立ち上がった。なら私達もそれに続こう。
真白が作る道を共に作りたいと何処かで思って集まった仲間達が私達にはいる。
「「たった一人で、努力もしないで胡座をかいてる奴に私達は負けない」」
『翠嵐』の切先をショルシエへと向け、私達はその巨体を睨み上げる。
わなわなと震えるショルシエは目を充血させ、怒りを堪えている様子を見せてから、絶叫とも言えるような大咆哮を上げる。
「滅ぼされるだけの下等生物が!!この私を胡座をかく半端者だと!!良いだろう!!それ程までに叩きのめされたいのであれば!!その肉片がチリになるまですり潰してくれるっっっ!!!!!」
大咆哮の衝撃で吹き飛ばされた瓦礫を『翠嵐』と『ネーヴェ』を使い叩き斬りながら、なりふり構わずに暴れ出したショルシエ目掛けて私達も飛び出す。
「キエァァァッ!!」
「「はぁっ!!」」
奇声を上げながら太い獣の腕を振り下ろし、魔力を伴った衝撃波が瓦礫混じりに辺り一面に広がる。
高火力の無差別広範囲攻撃を連打するショルシエはまさに怒りに我を忘れた獣のようだ。
その中から、魔力の薄いところを『翠嵐』の氷の刀身で切り裂き、形を次から次へと変えて行く『ネーヴェ』でこじ開ける。
そうやって出来た隙間を翼を操り翔け抜ける。その先にはショルシエが私達を囲む様に密集させた魔法の弾丸。
逃げ場が無くなるように配置されたそれは間違いなく私達を殺すためだけに放たれた魔法。
「「ーー廻れ、廻れ。『向日葵・十刀』!!」」
それを全て斬る。『翠嵐』と分裂した『ネーヴェ』の刃が周囲を回転して、渦を巻くように切り裂いて、その中心をまた飛んで行く。




