二人で百人 / 凍風刀華
だが、同時にショルシエ自身も言っていたように私達自身の強さ、ショルシエ風に言えば脅威度とでも言うべきか。それは確実に上がっている。
その結果がショルシエに攻めではなく守りの戦術を取らせている。
……いや、待てよ?アイツからすればあれだけの魔力は振り回すだけで私達は簡単に近づけないだろう。何故その戦術を取らない。
確かに時間を掛けるだけで勝率が右肩上がりなのは間違いない。ただ、そうやって長期戦を続けていつも私達に想定以上の何かをされて撤退を余儀なくさせているんだ。
こちらを格下に見ているか脅威に見ているかの差はあるかも知れないが、攻めれば勝てる状況で何故攻めない?
それに【ノーブル】からすれば最重要目的の一つであるS級魔獣『大海巨鯨 リヴァイアタン』のそばをわざわざ戦いの場に選んでいる理由は何だ?
復活が目的の一つなら普通そこから引き離すだろう?パッシオ達ともわざとらしくここを戦いの場に選んでいる。
見せつけるのは復活してからで良いはずだ。アイツが好きな絶望的な状況での復活だなんてそれこそ私達を倒してからで良い。
何故、ここで戦う。
「どうした小娘、怖気づいたか?」
「まさか」
挑発して来るショルシエに応じて、立ち上がる。咳き込んでいたグレースアも立ち上がり、戦闘準備は万端だ。
違和感を頭の隅に抱えながら、『翠嵐』を構えて翼をはためかせて空中に飛びだす。グレースアも続き、再びショルシエの障壁を削るべく攻撃を始める。
ショルシエの放つ魔力の弾丸の中を『翠嵐』で弾きながら突っ切る。グレースアも氷の弾丸で撃ち落としており、私達はその先に待つ尻尾での防衛ラインに足を踏み込む。
やはり疑問だ。ここで魔力の衝撃波でも放てば私達は後退せざるを得ない。さっきも放って来たが、壁に身体を強かに打ち付ける程度だ。やろうと思えば壁を抜くくらいの威力は出せるはず。
ヤツの魔力はそれを可能にするレベルで暴力的な量なんだ。何故それをやらない。
執拗に向かって来る尾を避け、掻い潜りつつ浮かんだ疑問への思考を続ける。何故、守りに徹するのか、何故時間を掛けさせているのか、どうしてこの場所をわざわざ選んでいるのか。
「――そういう事か?!」
身体を捻り、偶然目に入った『大海巨鯨 リヴァイアタン』が眠っている水の中。その中で魔力や衝撃が伝わるたびにリヴァイアタンがその巨体をゆったりと動かしているのが見えた。
魔力は十分すぎるくらいに足りているだろうリヴァイアタンは未だ目覚めない。長い眠りの中で起きるのに時間が掛かるのか、何らかの理由があるのだろう。
魔力が足りず、生命維持が出来ないから寝ているのではなく、ただ何故か寝ている状態だとするなら。
リヴァイアタンが私達人間が朝、やたらと寝起きに時間が掛かる時があるような。真白みたいに寝起きが悪いタイプなんて馬鹿げた理由があったとしたら。
起こすのに最も簡単な理由は外部刺激。
今のリヴァイアタンは起きかけのところに身体を揺らされているような状態だとすれば。
「グレースアっ!!リヴァイアタンの水槽を凍らせろ!!」
「貴様ッ?!」
「え?!何で?!」
「良いから早く!!」
もう一回寝ているような状況にしてしまえば良い!!コールドスリープなんて魔法じゃなくてSFの話だが、理論上はそうそう間違っていないだろ!!
私の指示に狼狽しながら実行し始めるグレースアと、慌てるショルシエ。概ね私の予想は正解か。【ノーブル】からしても、お前自身にしても、『大海巨鯨 リヴァイアタン』が復活しないのは都合が悪いんだろう?だったら、復活出来ないようにしてやる!!
グレースアに殺到して来る魔力の弾丸と三本の尾の間に割って入る。
「『固有魔法』ッ!!」
魔力の一片も通さん。私の親友に傷を付けさせるつもりは無い。
「高嶺流奥義ッ!!『英華発外』ッ!!」
高速で放たれた斬撃が数えるのも面倒なくらいの魔力の弾丸を全て斬り落とし、一度も受け止めることが叶わなかった3本の尾を弾き返す。
その刃の煌めきはまるで美しい花が宙に舞い、閃いているようにも見えた。




