魔法少女戦線
真白達とは別れて、東京方面へと足を向けていた私達は現在、船に揺られていた。
「昔から川と船を使った運搬が盛んに行われていたそうです。船着き場跡も多くあって、今はそれらを再開発して安全な移動と運搬の手段として使われているそうです」
「へー、江戸時代に作られたもんが今になって再流行ってすげぇな」
「それだけ、昔の人達が知恵を絞ったという事さ。東京に多くの川と橋があるのはそういうものを江戸時代に人の手で作ったからだね。埋め立てられてしまったものも多かったけど、ここ10年でもう一度陽の目を見るようになった川も多いんだよ」
パンフレットを開き、川を使った運輸手段について関心を深める。玄太郎さんの説明も相まって昔の人はこれを人力で行ったのかと思うと驚きだ。
魔法を使ったって川を作るだなんて長い時間が掛かるだろうに。というか川ってどうやって作れるのかしら。人の手で作れるということ自体が衝撃的でもある。
「で、お前はいつまで引きこもってんの?」
「船がこんなに怖いなんて知らなかったのよ」
とかなんとか御託を並べていたけど、私は船内で丸くなっているだけで外の景色だとかパンフレットは一つも見ていない。
船がこんなに揺れて、しかも苦手な水の上を走ってると考えると気が気でないのよ。どうしてあんな平気そうに出来るのよ。足元がこんなにふわふわしてるのに。
「水嫌いはともかく、平衡感覚が鋭過ぎるのも考えもんだな」
「船酔いに気をつけると良い。そんなに長い時間乗ってるわけじゃないけど、酔う人はすぐに酔うからね」
地に足が付いてない気がしてならない。立ってるとぐらぐらして気持ち悪くなりそうなので、船内の隅で丸くなってるのよ。
借りて来たネコは既に言われている。誰がネコよ。
「水の上から眺める景色ってのは中々新鮮だな。不思議と違って見えるぜ」
「普通の街並みを眺めてるだけなんですけど不思議ですね」
「これが海だとまた格別なんだけどね。君達が小さい頃は船での世界一周旅行なんかもあったんだけど」
海は生命の宝庫であり、それに比例して魔獣も多い。水の中という広いスペースと豊富な餌の影響もあってか、魔獣そのもののサイズも陸上に比べると大きくなりやすく、小さな漁船程度なら丸呑みなんていうのはザラだ。
そのため、海を渡る船の貿易は壊滅的な打撃を受け、その代わりに飛行機での輸送が中心になってるけど、効率は落ちてるらしいわ。
そりゃ、空を飛ぶのと水に浮かぶの、どっちが楽かって言われたら浮く方が楽だものね。一回に運べる量だって段違いらしいし。
私は見た事ないけど、10年前まではタンカーっていう輸送専用の船もあったらしいしね。
「川は元々の生き物のサイズも小さいのが多いし、希少が荒い生き物も少ない。第一、川幅が狭くて、人や船を襲うサイズになろうものなら、上手く泳げなくて逆に餌にされてしまうらしいね」
「大きくなったら海に降る魔獣も多いみたいですね」
「そう考えるとノンはかなり特異な例か。大きくなっても亀なら歩けるし、降りずに人間から餌もらってたんだもんな」
そういうことを考えとノンは随分珍しいケースだと改めて思う。水棲の大型魔獣はその身体の大きさに見合った水深や広さがある水辺が好きだから。
それが街の近くの池にずっといたみたいだし、ホント珍しいわよね。人懐っこいし。
「お、魔獣だ」
「河岸に来る生き物を狙っているんですかね」
お、魔獣だなんて軽く言うんじゃないわよ。遊園地とか動物園じゃないのよ。
碧の言葉に釣られて丸くなっていた体勢から身体を伸ばして窓の外を眺めるとたしかに魔獣だ。
あまり大型ではない。恐らくタヌキかハクビシンが魔獣化したもの。
狩りに来たのだろうけど、場合によっては戦闘も考えられる。
とりあえず動向を注視、といったところで魔獣は魔法にあっさり射抜かれていた。




