帰省
私の事はどうでも良いのだ。どうでも良くないけど今ここで話すことじゃないし、というか自己紹介の前から仲良くならないで欲しい。
「あ、私ったら自己紹介もしないで失礼しました。私、小野さんのお宅で家政婦をさせていただいている小林 一美と申します」
「私も遅れてしまい申し訳ありません。小宅 美弥子と言います。真白様専属のメイドをさせていただいております」
「僕はパッシオーネ・ノブル・グラナーデ。気軽にパッシオと呼んでください。真白とはそうですね、仕事仲間といったところです」
「俺はカレジです。姫様の護衛だと思っていただければ」
初対面の4人がそれぞれ挨拶を交わすと一美さんが不思議そうに私達の事を順々に眺めていく。
そりゃそうだ、預かっていた家から飛び出した子供が帰って来たと思ったら同伴者にメイドやら仕事仲間やら護衛を自称する大人が3人もくっ付いて来たのだから。
あくまで私の家はお父さんが医者をしていた結果として、周囲に比べて大きな家に住んでいるくらいのごくごく一般的な家庭だ。
小学校だって普通に市立だったし、中学だって何事もなければ市立に通っていた。
言い方は悪いけど小金持ち程度の家だったわけだ。大金持ちの大豪邸に住んでたわけでもない。この家だって諸星の屋敷みたいに何でも大きなわけじゃない。
周囲のお宅よりは大きいのは認めるけどね。
「真白さん、この方々は一体……」
「あはは、実は私。今は諸星姓を名乗っているんです。養子に来ないかって言われてて、まぁその何処から話せばいいのやら」
混乱している様子の一美さんに恐らく一番簡単に伝わる言い方をする。諸星とはそのくらい世界的にネームバリューのある名前だ。
その養子に誘われていて、しかも今現在その姓を名乗っていることがどれほどの事か、一般の人でもとんでもないという事だけは伝わると思う。
「諸星って、あの?」
「はい、あの諸星です。今は福島県にある諸星玄太郎さん光さん夫妻のところでお世話に……、って一美さん?!」
頭を押さえ、くらくらするといった具合で倒れ込んだ一美さんに驚き、慌てて駆け寄る。しまった、知り合いの中でも一番真人間の一美さんには刺激が強すぎる話だっただろうか。
私が帰って来ただけでも気を失いかけたのに、続けざまにこんな話をすればこうなるのも理解出来てしまうし。私だって言われたら頭を抱えるもん。我ながら奇想天外な人生だなぁとは思う。
また数十分一美さんを介抱すると再び話が出来るようになったので、席に着く。一美さんがペコペコしてたけど長らく勝手に家を空けてほっぽり出していた私が急に来た側なので非があるとすれば私だ。
「諸星だなんて名前、いきなり出されたら困るよね。ごめんなさい」
「いえ、ですが真白さんのその変化にも納得がいきました。……昔を知っていればいるほど、そうしてたくさんの人を連れて歩いているなんて信じられないですから」
「あははは……」
昔の私はずっと一人だったからね。よく陰口で一匹狼気取りなんて言われたしね。そんな陰口叩いている暇がある人達なんて今でも相手にするつもりは無いけど。
ともかく、私は傍目に見ても随分変化したらしい。それが良いことなのかは分からないけど悔いはないかな。
仲間と友達と、大事な人たちに囲まれて私は前よりもっと強くなれたから。
「良い人たちに出会ったんですね。これで奥様にも良いご報告が出来ます」
「うん」
いい人に恵まれたのは間違いない。間違いないんだけどそれで涙ぐむのは恥ずかしいので待って欲しい。どれだけ心配をかけたんだ私。
いや、勤め先の子供が家出して、それが更生して帰って来たなんて分かった日にはそうなるかも。うーん、ホント申し訳ない。ここに来てからずっと謝ってる気がする。
「それだけご心配をおかけしたという事を反省なさってください」
「ホントすみませんでした」
夢でも散々言われたけど、ホント物理的に逃げようものなら首根っこ掴まれて2度と脱走できないようにされるまである気がする。それ監禁だから無いと思うけど、滅茶苦茶怒られるのは確定的だし。
「さて、私もようやく話を聞く心持ちが出来ました。出来るだけ多くの話をお伺いしたいですね」
「ハイ、1から話すととても長くなるんですけど」
話は本題へ。ここに来た目的と経緯、私の今の立場とか話すことは沢山ある。それで何かを得られれば、それで十分な成果だ。




