真白
市場の横を通っている通り。その路肩に停まっているトラックや乗用車の影に隠れながらオバサンの先導を受けた私達は足早に銃撃戦が始まっている地域からの脱出を図る。
「ふーっ、年寄りには堪えるよ。皆は大丈夫かい?」
「大丈夫だぜ。婆さんこそ途中で倒れたりしないでくれよ」
「そこまで老いぼれてないと信じたいね。さぁ、まだもう少しかかるから我慢しておくれ」
大きく息を吐いて、額から垂れて来る汗を拭うオバサン。年寄りなんて言ってるけど動きは十分機敏だ。冷静に行動できているのは年の功ってところかな。
あとはどのくらい時間が掛かるかだ。せめて危険地帯からは少しでも早く抜け出したいけれど、まだまだ銃撃戦の音は近くに聞こえて来る。
それどころか近付いて来ているまであるみたいだ。嫌な事柄というのはどうしてこう足が速いのか。
「エマ、まだ何か分からない?」
【警官隊が何かと争ってるみたいってのはわかったけど詳しくは分からないみたい。そっちは大丈夫なの?銃撃戦の中心地は市街地みたいだから、市場はかなり近いけど】
「今離れてる最中、っと」
エマに情報を求めると、どうやらこの島の警官と何かが衝突しているらしい。
恐らく、状況は良くないだろう。警官だから当然、銃は持っているし、防弾チェストや様々な犯罪者への対応策を用意しているだろうけど、やはりどこまでもいっても警官は警官。
戦う事が主目的じゃない。島の犯罪を取り締まり、治安を維持する事が仕事だ。
対してこの騒ぎを起こした何かは明らかに銃器で武装している。
今トラックの影から伺える銃を手に持った3人組の男達がその証拠だ。
「オバサン、あの人達誰だか分かる?」
「見た事ない顔よ。他所の島から来たんじゃないかしら?」
「私達の島で銃なんて持って何してるのよ……!!」
市場で働くオバサンなら、島の住人の顔もよく知っているハズ。それをアテに聞いてみたら、どうやらあの武装した3人の男性に見覚えはなく、他所の島から来たんじゃないかと言う。
他所からこの島に攻め入って来たと言う事だろうか。今の時代、そんな事があるのかとも思うけど、それは平和に暮らして来た日本人的な思考だ。
海外に行けば部族間抗争なんて山ほどある。どうやらその類と見るべきだろう。
「オバサン、迂回は?」
「爺さんの家はこの先なのよ。この道を越えないと無理だわ」
どうにも迂回も難しいようだ。下手に森に入れば脚を取られてその隙に撃たれたらたまった物じゃない。
こう近くにいられると身動きも取れないし、だからと言ってこのままいればこちらに向かって来る彼らに気付かれる。
にっちもさっちも行かないとなると、多少無理矢理に犠牲を払ってでも進むべきだ。
考えたら即行動。私は皆に何も告げずにトラックの影から飛び出して、ワザと見せ付けるように通り過ぎていく。
「ガキだ!!ガキがいたぞ!!」
「しかも白人のだ!!」
「とっ捕まえろ!!」
私の出立ちは黒人の多いこの島では特に際立って目立つ。
私の姿を見て、沸き立った3人の男達は周囲の事などお構いなしに私の事を追いかけ始める。
よしよし、釣れた。
思惑通りに動いてくれた3人から必死になって逃げながら、私はオバサンの言っていた場所から離れるように動いて行く。
こうすれば、あの子達は安全な場所に行ける。
「待ちやがれ!!」
「チョロチョロするんじゃねえ!!」
物陰や道端にあるゴミ箱などを撒き散らしながら逃げ続ける私に、3人は怒声を上げながら追いかけ回して来る。
当然のことながら、その距離はドンドンと縮まって行く。生憎、身体も小さければ運動も苦手な性分。
ハッキリ言って、捕まるのなんて大前提の作戦だ。
それでも、私1人が痛い目を見るだけであの子達が救える可能性がグンと上がるならそれでいい。
「あっ?!」
そう思って逃げ続けて来たが、不得意な運動に加え、普段は殆どすることの無い長距離の全力疾走。
あっという間に体力は底をついたのか、脚がもつれて地面に転がる。
その間に3人組は私に追い付き、乱暴に手を伸ばした瞬間に銃声と真横のアスファルトが砕けて飛び散った。




