真白
銃声と悲鳴が聞こえた瞬間、周囲にいた子供達を市場の商品陳列棚の影に押し込んで姿を隠させる。
私もそこへ飛び込み、身を屈めてまずは音で辺りの様子を探る。
不用意に頭を出すと撃たれる可能性がある。まずはとにかく情報を集め、状況を整理しなければならない。
「もしもし、エマ?」
携帯電話を取り出し、『果ての無い医師団』で共に働く同僚のエマへと連絡をする。
私の仕事仲間は全員診療所で仕事中のハズ。人が避難して来たりして、情報を集められる可能性がある。
とにかく、情報だ。少しでもここから安全な場所へと避難するのが最前線。
子供達もいるしね。
【真白、無事?!】
「こっちは今のところ。子供達と市場のところにいる。何があったかわかる?」
エマの焦った声が携帯電話の電話口から聞こえて来る。あちらも銃声が聞こえていたらしい。
ただのいざこざや軽犯罪の末の発砲なら良いけど、此処は何処までいってもまだまだ経済も治安も不安定な発展途上国の島国。
突然何が起こるかは分からない。今までが平和だった分、その裏返しでクーデターのような事が突然起こる事がある。
それは政府じゃなくて民衆を巻き込む。何度となく、その凄惨な事が起こった後の光景を目にして来たけど、今回がそうじゃ無い事を祈る。
この胸騒ぎが当たらなければ良いのだけど。
【まだ分からないわ。トムとリーが確認しに行ってるけど、まだ連絡が無いの】
「分かった。電話は繋ぎっぱなしにする。分かったらすぐ教えて」
残念ながら、まだ診療所にも情報は回って来ていない様子。
今のところは様子見しか出来ないか……。
「真白、何があったの?」
「まだ分からない。情報が入るまではジッとして。絶対に顔を出したり物音を立てたりしちゃダメ。良い?」
子供達は案外冷静で、さっきケンカをしていた女の子が冷静に私に何があったのかを聞いて来る。
まだ分からない旨を伝え、此処から動かないように言い聞かせると全員が真剣な表情で頷いている。
良い子達だ。きっと将来はこの国を引っ張っていく若者に育つに違いない。
「分かった。お前ら、真白の言う事が絶対だぞ」
特にそのくらいの冷静さと判断力、そしてリーダーシップがケンカをしていた2人にはあった。
女の子は子供達を一塊に集め、男の子は近くにあった余った建材の手に取り、皆を守ろうとしている。
そんな子達だからこそ、何事もなく家に帰してやる必要がある。
そうしている間に、再び銃声が鳴り響く。次は一つじゃない。何発も続けざまに、恐らくは何人もの人がハンドガンよりも連射性のある銃を撃ち続けている音だ。
それに混ざり、人の悲鳴や怒声か聞こえて来る。
「ただごとじゃなさそうよエマ。まだトムとリーは帰って来ないの?」
【えぇ、聞こえてる。他の職員が2人の携帯に電話を掛けてるけど出ないの。もしかして……】
「すぐに悲観しないで。まだ状況がわからない、まずは2人の到着を待って……」
不安そうに声を震わせるエマは私たちの中でも一際臆病な性格をしている。
銃声なんて聞こえたら堪らなく不安だろうけど我慢して欲しい。
そう思っていた矢先、チュンっと音を立てて銃弾が陳列棚の近くの地面を削った。
チッと思わず舌打ちが出る。流れ弾が飛んで来るほどそれなりに近いところでも銃撃戦が始まりはじめている証拠だった。
「此処を離れるよ。皆、荷物は全部捨てて走るよ。オバさん、この辺にコンクリート製の建物ある?出来ればあっち方面」
「知り合いの爺さんの家がコンクリ製だよ。そこに行くかい?」
「まずは銃弾の届かない場所に行きたい。案内して」
木製の陳列棚じゃ銃弾なんてすぐに貫通してしまう。一緒に隠れていた野菜売りの市場のオバサンに隠れられる安全そうな建物を聞くと、近場にあるようだ。
いつまでも此処に隠れていても巻き込まれるだけだ。流れ弾で怪我でもしたら応急処置も難しい。
一刻も早く離れないと。
オバサンに先導してもらいながら、私達は物陰伝いにその場を離れ始める。
巻き上がる土とその中に混じる血の匂いが嫌な程鼻についた。




