真白
この時期、既に世の中は魔獣で溢れていた。
と言っても、世界を救った10人の魔法少女達を始めとした魔法少女の活躍により、S級魔獣と称されていた人類を絶滅にまで追いやる可能性のある超凶悪な魔獣達はそれぞれ、討伐、封印、休眠し、世の中は一旦の安寧を得てから数年の歳月が経っている。
時分的にはそんな頃。私達がこの島にやって来れたのも、『天幻魔竜 バハムート』が既に討伐されているからであって、そうでなければこの島にやって来ることは不可能だった。
幸い、この島は離島であり、人間以上に身体の大きな動物はいない。いても鳥類がメインであるし、その大きさもさほど大きくない。
むしろリスクが高いのは海の方だったようだが、この島の人達は逞しく変化した海に対応して、島の貴重な資源である魚などを漁で獲っていたいたようだった。
高度な文明に生活を左右されず、自然の中営みを続けていたこの島の人々にとっては魔獣が現れたことは脅威ではあっても、自然は自然。今まで通り上手く折り合いをつけて生活を続けられているのは、大きな被害を出している発達した国々と対を成しているようにも思えた。
便利を求め、国力をあげて豊かさを築き上げた国よりも、小さく不便であっても自然と共に生きて来た国の方が魔獣と上手く付き合えているというのは皮肉にも思える話だ。
「真白―!!」
「こっちこっちー!!」
子供達へのワクチンの接種も終えると私は一旦仕事から離れ、約束をした子供たちの下へ向かう。
この島では既に一月ほど過ごしていて、島の人達には既に私達『果ての無い医師団』のことは広く知られている。
島民全員の健康診断とかもしたからね。特に私は目立つというのもあって、他の職員に比べてひと際判別されるのが速かった。
「はいはーい。今日は何をするの?」
「サッカーしようぜ!!」
「ダメよ、あなた達乱暴なんだから。真白はお医者さんなんだから怪我しちゃいけないでしょ?それよりウチの果樹園のマンゴー食べない?真白ならお父さんたちも大歓迎よ」
手を振りながらやって来ると、元気が有り余っている様子の男の子はサッカーを、女の子は家の家業である果樹園へと誘いたいようだ。
周囲にもそれぞれ別の子供たちが数人いるけれど、大体は男女に別れてやりたい事が違う様子。
この二人はその中でもリーダー的な存在で、良く私を取り合ってケンカをしていた。
「勝手な事言うなよ!!」
「勝手な事言ってるのはどっちよ!!真白を誘ったのは私よ!!」
「俺だって遊びたい!!」
「男子だけで遊んでなさいよ!!」
ヒートアップしていく二人に、周囲はまたかといった様子。本当にしょっちゅうなのだ。ここに来てひと月の私ですら見慣れた光景なのだから、他の子達はもう年単位で付き合わされていることなのだろう。
ケンカするほど仲が良いのは結構なことだけど、程々にしておかないと時に取り返しのつかない決裂を生むことになる場合もある。
まぁまぁと宥め始めた私が、ようやく二人を落ち着かせることが出来たのは、それから30分も経ってからの事だった。
結局、二人が提案したそのどれでもなく、私達はこの島唯一の市場へと脚を運んでいた。
「あら真白さん。今日はお仕事はもう終わり?」
「ハイ。今は皆に今日の夕飯の献立を一緒に考えてもらおうと思って」
「あらいいわね。お芋ばかりの国だけど、これなんてどうかしら?といっても、キャッサバ芋なんてもう食べ飽きたもだけど」
「いえいえ、モチモチしてて美味しいですよ」
この島は食事と言えば、魚とココナッツ、そして芋だ。特に芋に関しては目を見張るほどの種類があって、未だに種類を覚えきれていないがどれも美味しい。
特に市場のおばさんに勧められたキャッサバというお芋はモチモチとした食感が特徴的なお芋だ。
餅とは似て非なるモチモチ感だけど、中々やみつきになる。味自体もあっさりしているので、色々な味付けが出来るのも魅力的だ。
「真白、魚はどうだい。日本人は好きだろ?ツナ」
「ありがとうございます」
次は漁師のおじさんに呼び止められてツナ、つまりマグロを勧められる。この辺で獲れるマグロは小ぶりで日本でよく知られるマグロよりも小さいけれど、味は立派なマグロ。美味しく食べられる。
残念なのは、この島には醤油とわさびが無いことだ。塩でお刺身は味気が無い気がするんだよね。
「真白は皆に好かれるよな」
「そうかな?友達は全然いないんだけど」
「だってお仕事ばっかしてるもの。忙しそうにしてるところに遊びに行こうなんて、私達だって遠慮しちゃう。日本人は特にそうじゃない?」
「うーん、否定できない」
ワーカーホリックだとは常々言われていることだ。こうして休憩ないし、昼間から出歩くのが大丈夫なのも、他の職員たちに仕事をさせてもらえないからに他ならない。
口々に揃えて「働き過ぎ」だと言うのだ。酷いものである。
笑いながらのんびり買い物をする。そんなまったりとした島で、任期の間は何事も無く過ごせそうな平和な日々に暗雲は突如立ち込める。
それは突然響いた、一発の銃声から始まった。




