高嶺
余りにも多くのモノが詰まった刀を赤の他人である私が使うなんて事は憚られる。
首を横に振る私に、十三さんはそうでは無いのだと返す。
「今でこそ、日本刀は価値の高い美術品であり、この刀は高嶺家の家宝として唯一あの方々が実在した証明であります。ですが、本来刀は武器です。敵を斬り、何かを守るために使われます。この刀も、そうやって代々受け継がれて来た物でしょう」
「武器である以上はそうだと思う。だがだからこそ私が安易に振るうわけには……」
武器の本質とは、と聞かれれば千差万別ではあるし、扱う個人による。
武器が人を傷付ける為の道具である以上これは変えようが無い。
だからこそ、その持ち手の資質が問われる。
歴史と想いを積み重ねた武器であるなら、尚更だ。
私にはそれがあるのか、私自身にはまだよく分からない。私は私のやりたい事をやってるだけだ。
自らをヒーローでなくてはならないと戒めているつもりはあるが、やはりその全貌は曖昧で不明瞭。
その刀を振るには私自身の器量が足りないように思える。
「千草様は安易な考えと軽い覚悟で刀は振るいませんよ。この十三、貴女が刀を振るって来たその様を間近で見て来ました。貴女には守りたいものがあり、それを成し遂げるだけの矜持と覚悟がおありです」
貴女はすぐに自身の事を過小評価しますからね、とオマケの一言まで言われて、私は口をもにょもにょとさせるくらいしか出来なくなる。
その傾向は自覚しているつもりだが、別に過小評価ではないのではないかとも思うのだがな。
後ろ向きな評価はしてないはず。個人的に自分という人間を評価するとそんなもんだろう。
「それが過小評価だよ。ま、自信満々にこういうの受け取っちゃうのは違うとは私も思うけどね。ま、とにかく預かっておこうよ。使う使わないは後で判断すれば良いんじゃない?」
手ぶらで行くわけにもいかないし、と要が軽く、それでいて真っ当な意見を言って来て、私は更に口を噤む。
魔法具が壊れている以上、私は武器が無いし元々遠距離の魔法は苦手な上、魔力が魔法具の修繕に回ってるのでまともに動けるのかも怪しい。
要の言う通り、旅をするなら武器の一つくらいは欲しい。
「いや、だがな……」
「良いから。ハイ、どうぞ」
「あ、オイ?!」
それでも渋る私に痺れを切らした要が、十三さんから刀を受け取って素早く私の手元にポンっと置かれる。
魔法具とは違う、金属のズシリとした重みを感じながら抗議をするものの、十三さんは満足そうによろしくお願いしますと頭を下げていて、私は三度口を噤む事になった。
「わかったよ。とりあえず笠山の街にまでは行ってみる。そこでどうするか決めるよ」
「よろしくお願いします。返す場所はそうですね、笠山の地名の元になった、笠山という小高い山の上にでも置いてやってください。あそこは眺めも良いので、広く街を見下ろせますから」
「道場じゃなくて良いのか?」
「今では何処にあったのか探すのにも一苦労でしょうから」
地図のこの山ですよ。と指を指された場所に要がすかさずマーカーで「笠山」の文字を書き込む。
確かに低い土地の中で分かりやすく小さな山、というよりは小高い丘のような場所があるようだ。
近くに行けば街の跡もあるだろうし、場所さえわかればどうにかなりそうだ。
「全く、余計な気を回したがばっかりに……」
「まぁまぁ、もしかしたら何かあるかも知れないしさ」
藪蛇だったと嘆く私と、いつも通り軽い調子の要。あっという間に話に興味の無くなった墨亜はニコニコ顔の十三さんに連れられて部屋を早々と出て行っているし、味方はいないようだ。
「はぁ、こういう時に真白がいればな」
「言って真白ちゃんも千草に押し付けると思うよ」
私がガックリと肩を落としたのは、言うまでも無い。




