Over take
ゲームもそれなりに遊んで少し休憩するとお父さんが帰って来ました。
今日はわざわざ仕事を半日くらいで終わらせて来たみたいで、お昼前だって言うのに仕事着のツナギ姿でいるのは少し新鮮っすね。
「準備は出来てるのかい?」
「お父さんも心配し過ぎ。お母さんにも散々言われたよ」
「心配くらいはさせてくれ。少しとは言え、離れて暮らすんだからな」
心配ばかりのお父さんとお母さんにうんざりして来る事を伝えるとそう返って来て反論のしようが無くなりました。
まぁ、出来ることは気にかけることくらいしか出来なくなるのは間違いないわけで、しかもボクのワガママで福岡に行くわけですから、そう言われたらもう何にも言えないっすよね。
「あ、そうだ。昼はまだだろう?少し付き合ってくれないか?」
「ん?付き合うって?」
「ドライブだよ。離れる前に街をよく見るのも悪くないだろ?」
お父さんからの珍しい提案に、ボクは驚きます。
お母さんとか弟を誘う事はあっても、ボクは娘というものあってかあんまりドライブには誘われなかったですから。
街を離れる前に一度見ておくっていうのも確かにしておきたいですし、ボクはその提案に乗りました。
「俺も!!」
「今日乗る車は2人乗りなんだ。お前はまた今度な」
「えー!!ケチ!!」
一緒に行きたいと駄々を捏ねる弟を笑いながらあしらうと、お母さんに少し行ってくると伝えてボクと一緒に玄関を出ます。
5月前の明るい日差しの下、玄関前に停まっていた車はお父さんがいつも乗ってる仕事用のワゴン車では無くなってました。
「これ、確か工場の奥にあった……」
「あぁ、ウチの工場の奥で埃を被ってたアイツさ。お前に見せるのに少し前からちょっとずつ修理をしててな。何とか間に合わせたんだ」
ボクのお父さんは車の整備工場を経営していて、その工場の奥には昔からスポーツカーが幾つかありました。
お客さんのだったり、お父さんの趣味の車でしたけど、魔獣が現れるようになってモータースポーツが衰退して行くとその工場の奥にあったスポーツカーはどんどん減って行って、この車はその最後の一台だったと思ったっす。
「これをボクに?」
「あぁ、父さんなりの意図があってな。さぁ、乗れ。バケットシートだから乗り心地は少し悪いのは勘弁して欲しい」
お父さんはこれをボクに見せる何かの理由があるらしいっすけど、今のところそれはよく分からなくて。
ボクは言われるがままに、べったりと低くて中も狭いそのスポーツカーへと乗り込みました。
確か、もう30年も前の車だって聞きましたけど、その割には埃っぽくもないし、年数的な劣化はアレとしても綺麗にされてると思いました。
バケットシートっていう、レース用のシートは確かに乗り心地は良くないっすけど、身体はガッチリ固定されて安心感があるっすね。
「よし、じゃあ行くか」
お父さんの一言と共に、スポーツカー特有の大きめなエンジン音と排気音を響かせて、車は進み始めました。
住宅地を抜けて、幹線道路に出ると車の流れに乗ってお父さんは運転を続けるっす。
スポーツカーの低い視点から見る街並みは少し違って見えて、面白いっすけどトラックの隣を走ったりすると少し怖いっすね。
こっちが低いぶん、向こうが高く見えて圧迫感が凄いんですよ。
「何処か行くの?」
「ん、少し会わせたい人がいてな。父さんの古い知り合いだ。舞も知ってる人だから安心しろ」
「私が知ってる人?」
アテもなく運転してるというよりは何処か目的地がある運転をしてる気がしたので聞いてみると、会わせたい人がいるみたいっす。
でも、ボクはその人を知ってるらしいですけど、お父さんの友達なんてそうそう会うものでも無いですし、わざわざ会わせたいってのはどういう事なんすかね?
首を傾げるボクに、会ってからのお楽しみだと言うお父さん。それなら、まぁ信用して楽しみにしておくのが良いっすね。
お父さんが変なことするとは到底思えないですし。
そうして、ボクを乗せたスポーツカーは市街地を抜けて、郊外へ、そして街の外縁にある倉庫街へとやってきました。
この前の戦いの場所とはちょうど正反対の方向にある倉庫街で、こっちは相変わらず人気の少ない無人の街って感じっすね。
「待たせたな。中々コイツのセッティングに手間取ってな」
「時間通りだよ。焦って事故るよりよっぽど良い」
その倉庫街にポツンと1人佇む男性。その横に車を停めたお父さんは、窓を開けて気軽に声を掛けます。
同じように親しみを感じる口調で返した男性を確かにボクは知ってました。
「た、田所さん?!」
「どうも舞ちゃん。今日はオフだから、肩の力は抜かせてもらうよ」
そこにいたのはいつもはしっかりとスーツを着込んで諸星専属の運転手として働き、ボクらの事もよく送り迎えしてくれる田所さんの姿がありました。




