キャンパス
「考え過ぎ」
「……は?」
たった一言、それだけを言われて私は固まります。考え過ぎって、だって私の役割は考えることです。それを止めたら私がいる意味自体が無くなります。
私は司令塔です。皆の状態や敵の行動などを直接見て、状況を直接判断するのが役割。それが考えるのを放棄したらとっ散らかるに決まってます。
……先日はそれで取り返しのつかない間違いを犯したのも、事実ですけど。
「誰も考えるな、とは言ってないでしょう?考え過ぎずに役割に固執せずに、もっと肩の力を抜きなさい。自然体で良いのよ」
「……つまり、どういうことですか」
お母さんの言っていることがよく分からない。考えることが役割の私に考え過ぎず、役割だけに注力せず、それでいて自然体でいろと言う。
言っていることが無茶苦茶なような気がしてならない。そんな好き勝手が許されるのは子供だけだ。
「貴女は子供でしょう。まだ15年しか生きてないわ。お母さんなんて25歳くらいでようやく大人の自覚だとか、責任だとか色々実感して苦労したのに、成人すらしてない貴女がそれを背負う理由も、捌き切れる能力もまだまだなのは別に当然のことよ」
「それが許される仕事じゃないんです!!」
「それでも貴女は子供よ。どれだけ魔法少女が誰かの命を預かっている仕事でも、貴女がどれだけ真面目で責任感が強くてもね。別に好き勝手して良いわけでもないし、責任が決してないわけでもない。ただ、あなた一人がその重責を負う必要もないわ。周りの子は、皆そうしてるんじゃない?」
そう言われて思い返してみると、確かにそうだと思う。
別に皆責任を取らない、感じてない訳じゃない。魔法少女として、戦わなくちゃ、守らなきゃいけない事はむしろ強く意識している人達ばかりだ。
それでもなお、皆は好き勝手とは違うけど、後から生まれるかも知れない面倒ごとを全部放り投げている時は度々ある。
例えば、朱莉ちゃんが最後に使ったという『固有魔法』。
アレもバハムートやショルシエが残した被害よりは軽微だけど、倉庫街の一部と街の外壁を焼き斬っている。
それだけ必死だったし、必要だった。それは誰もがわかっている。
それと同じことを、私は出来るのだろうか?
また少し考えて答えを出す。多分やる。それが必要な事というか、やらなきゃいけない事だから。
それをしなきゃ、皆と一緒に戦ってる意味がない。
そこまで考えたところで、何故か心がフッと軽くなった。
なんで?必要なことなら責任なんて後回しに出来るってわかったから?
いや、でも責任は責任でやっぱり後で頭を悩ませる事になるのは当たり前だし、え?なんで?
「ふふふっ、本当、真面目も真面目ね。ほら、バグってないでお茶でも飲んで少し落ち着きなさい」
「は、はい」
言われた通りにズズズとお茶を啜って、一息付きます。
で、なんであんなところで肩の荷が降りた感覚がしたのでしょうか?
全くわかりません。責任感からの解放、はやっぱり違う気がしますし。
「ねえ紫。ママのお仕事ってどんな仕事だと思う?」
「えっ?服飾デザイナーですよね?」
「それってどんな仕事だと思う?」
また突然禅問答みたいなやり取りが始まった。魔法少女の責任や、私の悩みの話からなんでお母さんの仕事の話になるのか。
大人って回りくどい話が好きですよね。ストレートに結果だけ教えてくれる人は中々いません。
考えろ、ってことなんでしょうけど。難しいです。大概は答えのない事柄ばかりなので。
「誰かの着る服をデザインするお仕事、です」
「そう。ママのお仕事は他の誰かがオシャレをする為に着る服をデザインすること。今まで、ママは沢山の人にその人が1番素敵になれる服を作ってきたつもりよ」
「はい、お母さんの服を手にした人は皆さん喜んでたと思います」
うんうんとお母さんは満足げに頷いています。お母さんは企業などには所属せず、自分のブランドを持つフリーのファッションデザイナー。
その道ではそこそこだと言っていました。私はあまりお仕事に関わらせてもらっているわけではないので、実態はあまり知りませんが。
たまにデザインについて、勉強させてもらったりはしてますけどね。やっぱり、興味はあります。
「で、ママがファッションデザイナーを始めたきっかけの話なんだけどね。高校生の頃、初めて服をデザインして作った時にクラスの皆に喜んでもらったからなのよね」
「文化祭か何かですか?」
「そうよ。演劇をする事になって、その衣装ね。すっごく嬉しかったわ。それからずっと、自分のブランドを持った今でもその最初の気持ちは忘れてないわ」
興味深い話ではあるけど、やっぱり意図が見えて来ない。首を傾げる私に、お母さんは最後まで聞いてみて、と笑うばかり。
「ママが初めて服を作った時に、思ったのは『もっと誰かを素敵に着飾れる人になりたい』ってね。自分に自信がない人も、物凄く美人な人も、カッコいい人も、ママの作った服で今よりもっと素敵にな人になるのを見たくて、ママはデザイナーを目指したの」
あ、とここまで言われてお母さんが何を言いたいのかを理解した。
そして、思い出した。私が、魔法少女になった本当の理由。
将来安定した仕事を斡旋してもらえるからとか、碧ちゃんと朱莉ちゃんがやってたからとか、そんな打算とか流されて始めたんじゃない。
それは何処か、本当の理由をひけらかすのが恥ずかしくて後付けした理由だったハズなのに、いつも間にか自己暗示してしまったみたいにすり替わってしまった理由。
「ねぇ、紫。貴女はどうして魔法少女を始めたんだっけ?」
成る程、そうかそれで良いんだ。皆の個性が強い理由も、足並みは絶対揃わない理由も、私が疎外感を感じるのも当たり前だ。
だって、私はずっと私に嘘をついて来た。建前ばっかり気にして、恥ずかしくて大人ぶって斜に構えた。
チームで司令塔の役割だからなんて理由をつけて、皆に偉そうに指示出して、間違えて真白さんを傷付けて、本当どうしようもない。
私は、私が魔法少女になったのはーー。
「私は、皆の凄いをもっと凄いにするために魔法少女になりました」
偉そうに指示するのが私のやりたかった事じゃない。
誰かを守る魔法少女でも、ヒーローになりたいからでもなく、司令塔なんかでもない。
皆のやる凄いことを、もっと凄いに変えるのが私のやりたかった事。




