破壊者の力
魔力の暴走。読んで字のごとく、過剰な魔力や、魔力を制御するのに必須と言われている高い知性や理性が失われた時に起こる現象のこと。
暴走、と言っても幾つかパターンがあるらしくて、過剰な魔力の場合は暴発。制御不能の場合は凶暴化。これが主な2つらしい。
碧が後半の凶暴化に該当する魔法を使った事が前にあったのは私も記憶に新しい。かつて使っていた碧の『固有魔法』の『WILD OUT』は故意に理性や知性を失わさせることで、魔力を暴走させて、爆発的に身体スペックを上げる魔法だったかしら。
最近は改良版の『WILD BLUE』を習得したから、今後使うことは無いだろう魔法だし、暴走自体は普通に魔法少女をしている限りは起きることはまず無いと言われている。
だってお腹いっぱいなのに胃袋が破れるまでご飯を食べることはしないでしょ?
魔力だって同じ。自然回復する分には自分のキャパシティ以上に回復することは無いわ。あるとすれば、外部から何らかの方法で魔力を注入した時に起きる。
例えば、魔法少女同士の魔力の譲渡。あるいは魔力を帯びた何かを体内に取り込んだ場合なんかが該当するんじゃないかしら。
そう、今の私みたいにね。
「お前も分かっての通り、今のお前の中にはバハムートのメモリーが入ってる。それが膨大かつ強大だってことは体感したな?」
「そりゃあね。でも、今のところなにも無いわよ?」
「今のところは、な。その辺りが番長達が静観してる理由だろ。なんせ意思を持って一人でに動くメモリーなんて初めてだしな」
そう言われて成程と思う。人間、理解不能というか、簡単には分からない事に直面するとまずは様子見をするものだ。
これが答えが既に分かり切っている物事ならともかく、魔力や魔法関連についてのアレコレは何かと想定外の事が起こりやすい。
今のところは私がピンピンしているから、番長達も動向を見守っているってことで良いのかしらね。
「それにメモリーの中身はバハムートの魔力ってのを考えると、お前の中に入ったのはバハムートの意思って事にもなる。なんらかの意図があってもおかしくねぇだろ」
「そんな理性的というか、打算的な相手には見えなかったけどね。どちらかというと、その場のノリで決める戦闘狂って感じだったけど」
「そう思いてぇけど油断は禁物ってな。何か意図があるって見るべきだ。あのメモリーは使用者の身体を乗っ取るくらいは出来るみてぇだし」
確かに、バハムートのメモリーが入ってたそれぞれの改造魔獣が合体して、バハムートが復活してた。
強力な魔力で、逆に相手の身体を奪ってたって感じなのかしらね?なんにせよ、超強力な魔力であり、メモリーであることだけは確実。
どうしたって気を付けるべきだけど、何をどうすればいいのかは誰も分からない。何かあった時にその場で対処するしかない。場当たり的と言えばそうなんだけどね。
「んでだ、そんな暴走の危険がありそうなお前と、その経験があるウチで情報の共有をしようと思ってな。ウチ個人としても、お前のメモリーの運用の仕方っつーか感覚について前から聞きたいと思っててよ。良い機会だし、腹を割って話そうぜ」
「腹を割ってって。碧に変な嘘なんてつかないわよ。どうせバレるし」
「言葉のあやだよ、あや。とりあえず茶と菓子でもっと」
そう言って、テーブルの上にあったタブレット端末を操作した碧。数分後には紅茶とクッキーをお盆に乗せたおばさんが部屋に入って来た。
どうやら、このおばさんがこの家のお手伝いさんらしい。というか、さっきのタブレットはお手伝いさんへの注文用ってワケね。
いやホント金持ちって技術の無駄遣いが凄くない?便利に敵う者は無いって言うのは分かるけど。
「お待たせしました碧さん。あと、朱莉さんで良かったかしら?」
「ありがとよフミ子さん」
「はい、ありがとうございます」
恰幅の良いお手伝いのおばあさんはフミ子さんというらしい。何というか、優しそうなおばさんの典型例というかとにかく人が良さそうな雰囲気で安心感がある。
私のお祖母ちゃんはどっちかというと顔は強面だったから、正反対の人かな。
フミ子さんは紅茶とクッキーを置いていくと、ぺこりと頭を下げて音も無く部屋を出て行った。あとで挨拶でもして行こう。
「さて、始めっか」
「そうね。まず何から話す?」
こうして、私達の情報交換会は始まった。




