破壊者の力
私の中に入ったバハムートのメモリーについて話がある、そう言って私を先導する碧は広い家の中をずんずん進んでいく。
というかワンフロアってことはこの階全部が雫さんと翔也さん、碧の住む家って事なんだろうけど、まだエレベーターホールから続く廊下が続いてる。勿論、靴は履いたまま。
真白達が住む諸星のお屋敷もそうだけど、お金持ちの常識って言うのはホントに庶民の常識が通じないわね。
「ここって碧の家なんでしょ?どういう作りなの?」
家の中を靴を履いて歩くっていうのは日本人的な感覚ではなんだか違和感というか、不自然さばかりを感じて慣れない。むず痒さに我慢できずに碧に質問してみると。
「ん?あー、確かにワンフロア丸々ウチの家っつーかお袋と翔也さんの家だけど、居住スペースっつーの?実際家として使ってんのはフロアの三分の一くらいだな」
「じゃあ残りはなんなのよ」
返って来たのは相変わらずのぶっ飛んだ回答というか、そうなるのかって答えよね。
分からないわお金持ち。どうにもならない感覚の差を感じるわよね。ワンフロアって言うから丸ごと思ったら、そうじゃないんだものね。
「翔也さんの職場として使ってるのと、残りは時たま来る翔也さんのお客さん用の客間とか、住み込みのお手伝いさんの部屋だな。まぁ、千草達の屋敷のスケールちっこい版と思えば正解だな」
「どの辺がスケールが小さいのか問いただしたいわ」
お金持ちのスケールは大体おかしくなっていると思ってるけど、碧も良い感じにおかしくなって来てるわね。
何をどうしたらこれがスケールダウンなのかしら。
そんなしょうもない会話をしていると、ようやく玄関らしい扉が見えて来る。当たり前のように幾つかの操作をしてようやく開く。セキュリティーもバッチリって感じよね。
諸星本家筋の息子が婚約者と住んでいるんだから当然だけど。
「とりあえず上がれよ。ウチの部屋で話すっぞ」
「うーん、私の知ってる碧と違い過ぎて風邪ひきそう」
「引っ叩くぞ」
だって私が知ってる碧は玄関に脱いだ靴は脱ぎっぱなしのガサツな一応性別女の野生児レベルのアレだし。
靴を丁寧に揃えてスリッパをパタパタさせて、ワンピースの裾も抑える女の子を私は知らないわ。
環境が変わると人ってあっさり変わっちゃうのね。
「あいだ?!」
「アホな事考えてねーで行くぞ」
首根っこを掴まれて、ずるずると廊下を引きずられていくと雫さんが通り過ぎて行ったリビングの入口越しに爆笑してるのが見えて辛くなったから離して欲しいわ切実に。
そのまま部屋まで連行されて、ポイっとベッドに放り投げられる。ぎゃっと声を上げてベッドに着地するとぱちぱちと拍手をする碧を睨みつける。
「相変わらず曲芸じみた平衡感覚だな」
「適当なノリで人を投げるな!!」
怒る私をケラケラと笑って受け流す碧を不満感MAXで睨むけど相手にされていないのはいつもの事なのでさっさと諦めて部屋の中に置いてあるソファーにぴょんっと飛び乗る。
行儀が悪いなんて知ったことでは無い。どうせ勝手を知った碧相手なんだから。
出されたクッキーを食べてお茶を啜ってようやく話をする態勢が出来上がる。ここまで来るのが長かった気がするわ。
「さて、まぁ今日呼んだ理由ってのはさっきも話した通りお前の中に入ったバハムートのメモリーについてだ。どうせお前の事だ、親には一言も話してないんだろ?」
「うっ」
そして早速図星を指される。碧の言う通り、親にはそんなことがあったなんて話していない。
いくら両親いえど、魔法少女の活動に関しては基本秘匿だし、あれこれ色々話すのは信用問題なんかから推奨出来ないし、最悪クビになるからするもんでもないけど、身体の異常やそれにかかわる話ならそれは別。
子供を一番見てるのはやっぱり親ということで、怪我とか不調とかそう言うのはちゃんと情報を共有することが推奨されている。バハムートのメモリーについては、身体にどんな影響を及ぼすか分からないから伝えておくに越したことはないのはそうだ。
ただ、私はそれを親に伝えられないままでいた。
「お前もだけど、親には心配を掛けたくないってどうしても思うからな。ウチだってそうだし、皆そんなもんだろ。だからまぁ、せめてウチだけはしっかり状況を把握しておこうと思ってな。それに、気がかりっつーか。少し共有しておきたい情報もあるしな」
「共有しておきたい情報?」
「魔力の暴走についてだ。これだけ言えば、ウチが何を危惧してるのかわかるだろ」
そう聞いて、私はドキリと胸が鳴った。




