真白
カーテンを閉め切った薄暗い部屋で、ベットに寝転ぶ私は泣き過ぎて痛くなっている目を擦りながら目を開く。
また、泣き疲れて寝てしまったらしい。泣いても何の意味も無いのに、泣いて後悔したところで誰も戻ってこないのに。
私が生まれてこうして生きている以上、父も母ももういない。二度と戻って来ない。
私がいるから、死んでしまった。
「うううっ、うううううううう」
そう思ったらまた視界が滲んで来る。また涙が浮かんでくる。
ごめんなさい。ごめんなさい。私のせいで、私が生まれたから。ごめんなさい。
ただただ頭を埋め尽くす懺悔の言葉。どれだけ悔いても、どんなに願っても叶うことない願い。死んでしまった人は、私が奪った命は絶対に帰って来ない。
私のせいで倉庫街もぐちゃぐちゃになってしまった。私のせいで皆が怪我をした。千草やパッシオなんて生死を彷徨う大怪我をした。千草は治療班の人達のおかげでもう目を覚ましたらしいけれど、魔法具が壊れてしまった。
もう、魔法少女としては戦えなくなってしまったと考えていい。魔法具の破損はそのくらいのおおごとだ。
私のせいで、千草の未来をぐちゃぐちゃにしてしまった。【ノーブル】に対抗するための戦力だってガタ落ちになる。
パッシオに至っては、まだ目を覚まさない。カレジの助言を受けたおかげで、何とか一命は取り留めたけどもう3日も眠ったままだ。
魔力を送り続ければ、じきに起きるって言ってたけど。何日も目を覚まさないような大怪我なんて今まで無かった。
私のために怒ってくれた、私のために動いてくれて、そのせいで受けた傷。
「……ごめんなさい。ごめんなさい」
同じベッドの中で眠り続けるパッシオを抱えて、謝り続ける。
大事な相棒。ずっと隣で戦ってくれた大切な仲間。それなのに、私のせいで傷付いて、私のせいで私のせいで……。
そうやって私が罪悪感に苛まれていると、抱えていたパッシオがもぞもぞと動き出して、んーと伸びをして起きた。
いつも通りに、当たり前のように。
「んー、おはよっんぐ?!」
「パッシオ!!」
思わず飛び上がって思いっきり抱き締める。腕の中で悲鳴が聞こえた気がするけど、離すつもりはない。
良かった。良かったと安堵の気持ちで頭の中はいっぱいだった。
「く、苦しいよ真白……」
「だって、私のせいで、ごめんね……!!」
苦情を言うパッシオをそれでも強く抱き締めて、彼が此処にちゃんといる事を実感する。
私のために怒ってくれた相棒に謝ると、グイッと強めの力で押し返されて、腕の中から逃げられてしまう。
逃げた先。私の真正面に向き合うように座ったパッシオはこほんっと咳払いをしてから頭を下げた。
「まずはありがとう真白。君がいなければ、僕は間違いなく死んでいただろう。出会ったあの時に一度、今回でもう一度。二度も君に命を救われた。大した事も出来ないし、月並みな事しか言えないけれど、ありがとう」
「そんなことない!!だって、今回は私のせいでーー」
「君のせいじゃないよ。何も君は悪くない。何もね。あらゆる事の原因はショルシエだし、何なら僕にも非はある。僕は君の両親、特に母君であるプリムラ陛下について知っておきながら、伝えなかった。伝えていれば、君がここまで傷付く事はなかった。すまない。僕はいつも、隠し事ばかりだ」
深々と頭を下げて、パッシオは謝る。そんなことない。パッシオはいつだって私のことを優先して考えてくれている。
パッシオの元職場がミルディース王国で、その近衛騎士の副団長であるなら、確かにお母さんのことをそれなりによく知っているハズ。
でもそれまで、人間界にお母さんが来ていた事すら、多分パッシオは知らなかったハズ。
それに気付いたパッシオは、きっと私が傷付いたりしないように、教えるなら推測じゃなくてちゃんと真実を伝えられるように、色々な準備や行動をしてくれてたんだと思う。
だから、パッシオはお父さんに会いたがってたんだ。お父さんなら、絶対に何かを知っているハズだから。
それを拒んだのは私で、2人が死んでしまう理由を作ったのは私で、結局のところ私はパッシオにもみんなにも迷惑をかけてばかりで、一人で勝手に傷付いてるだけで。
「そんなハズないよ。陛下も、君の父上も、きっと君を守ろうとしていたんだ。それが親だ。僕だって、君の親じゃないけど、君が傷付くなら僕が代わりに死んだって構わない」
「そんなの絶対に嫌!!」
「分かってる。だから僕は絶対に死なない。何度でも約束するよ。君が、君と僕が立てた目標を達成するその時まで、僕は絶対に君の隣にいる」
私のために死んだって構わない。そんなことを言うパッシオに怒った私のおでこを尻尾の先でツンツンと突いて、諌められる。
パッシオなりの決意の現れ、ないし比喩表現なのかな。でも、この前のパッシオを見ていると本当にそういう事をしそうで不安になる。
また、私の大切な人が私のせいでいなくなってしまったらと思うだけで、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
「君のせいじゃないよ。君だから、君みたいに誰かのためになれる人だから、そのくらいの事が出来るんだ。さぁ、酷い顔だよ?少し寝よう。気持ちが後ろ向きになるのは疲れてるからだ。大丈夫、皆が君の味方だよ」
そう言ったパッシオが姿を大きくして、尻尾で私の身体を持ち上げるとそのふわふわの尻尾で私を包み込む。
その温もりと居心地の良さで再び意識を手放すのはあっという間のことだった。




