こちらでされてる密かな話
魔法少女達が集まっていた部屋を離れ、仕事のために協会へ向かう車へと乗り込んでから、私ははぁっと息を吐いた。
何とか上手くいって良かった。暗い雰囲気になっていたあの子達の気持ちを何とか上向きにさせられた。せめて、気持ちだけでも上を向いて無いと何も出来なくなるし、何をしても身に入らないからな。
根拠のない自信があるくらいがちょうどいいんだ。慢心とは違う、自分の行動を迷わないための踏ん切りの良さのようなモノがしっかりついていれば、人間は案外出来るものだ。
「焚きつけるのが上手いわね」
「昔はああやって藤子を焚きつけては戦いに出てましたからね。久々だから上手く行くか緊張しました」
「成程ね。どうりで上手な訳だわ」
同じ車に乗っている光さんが笑いながら、何とかして気持ちを盛り上げた様子を評価してくれる。
昔、まだS級魔獣と世界を救った10人の魔法少女達が存命で、私と藤子が魔法少女になりたてだった頃には、今じゃ考えられないけど藤子は本当に弱気で泣き虫で、不安になって来ると半泣きしながら私のところに来るような少女だった。
その度に私が焚きつけては肩を並べて戦いに行ったものだ。懐かし過ぎて、思い出すのも恥ずかしい昔の話だが、今回はその経験が上手く生きた。
「さて、これからうんと忙しくなるわね。あの子達の事だから、本当に無理難題を吹っかけて来るわよ」
「腕が鳴りますね。まずは千草の魔法具の修繕方法について、各所に当たって見ます」
あれだけ焚きつけたのだ。私達大人がその期待に応えないワケにはいかない。
そのための『魔法少女協会』だからな。
差し当たっては真っ先に取り掛かるのは千草の魔法具の件。
バハムートやショルシエとの激しい戦闘の後に、元々防御には向いていない細身の日本刀型。壊れてしまうのも頷けるが、ではどうするかだ。
魔法具の修繕。心当たりが無いわけでないのだが、私はその件について詳しく無いし、最も詳しいであろう当事者は既に亡くなっている。
藤子、『破絶の魔法少女 ウィスティー』。その師匠であり、世界を救った10人の魔法少女の1人がその当事者だ。
あらゆる物を絶ち斬った大剣豪。『絶剣の魔法少女 グランディー』。
あの人は確か一度、『天幻魔竜 バハムート』ととの戦いで、その魔法具が折れていたハズ。
でも、その半年後に本格化した『人滅獣忌 白面金毛の九尾』との戦いには当たり前のような表情をして参加をしていた。
通常、2年は掛かるとされている魔法具の再生。それを半年以下に抑えてる。
という事は、普通ではない何かをした可能性は大きい。
「藤子に聞いてみるしか無いわね」
しかし、これらは全て推測。実際どうだったかは分からないし、さっきも言った通り『絶剣の魔法少女 グランディー』も『人滅獣忌 白面金毛の九尾』との戦いの中で亡くなってしまっている。
その弟子である藤子なら、あるいは……。と、その程度の話。あまり期待しない方がいいかも知れないわね。
そして、もう一つ私が憂慮しているのは真白の心の方だ。
「光さんは良いんですか?真白の側にいなくて」
「……今は少し距離を取った方がいいのかと思って。本当の両親の事であの子が苦しんでいるのに、私が母親ヅラしてあの子に近付いて良いのか、ちょっとわからないの」
珍しい。光さんがここまで弱気になっているなんて。
いや、でも私だってどう接してやれば良いのかわからない。
ましてや光さんは真白を引き取ろうとあれこれ手を尽くしていて、真白の両親。特に父親について行方を追っていたハズだ
それがまさかこんなカタチで露呈し、真白を深く傷付ける結果になるだなんて、誰が予想出来たか。
「別にこれからもあの子の事は娘だと思って接するわ。それは絶対。でも、母親として何が出来るのか、そもそも母親として接して良いのかがね」
「……少なくとも寄り添う誰かが必要です。あの様子では、何もしないでいると最悪を招きかねません」
とにかく、メンタルが弱りきっているのは誰が見ても明白。
あのまま放置していたら、罪悪感に押し潰されて自ら命を絶ちかねない。
それだけは避けなければならないこと。
「……そう、よね。はぁ、やっぱり親としても人としてもまだまだ半人前ね。主人とも話してみるわ」
「いえ、私なんて彼氏すらいませんし、親としての悩みなんて想像でしか語れませんから」
「あら、じゃあ今度いい人紹介してあげましょうか?」
「しばらくは仕事が恋人ですよ」
美人なのに勿体ないわよ。なんて笑われて、再び仕事話に戻る。
やはり主な話は千草の魔法具、真白の容体。そして朱莉の中に入ったというバハムートのメモリーについてだ。
不確定要素も多い中、物事を進めなきゃいけない不安を微塵も見せないようにして、彼女達の負担を少しでも減らさないといけないからな。
魔法具については情報を集め、真白と朱莉については要経過観察といった具合に落ち着くが、他の魔法少女達からの要望にも応えなければ。
さて、しばらくは残業だなコレは。




