道程
泣いている紫だって、怪我だらけの千草だって、不安そうな顔をしている墨亜でさえ、その瞳の奥には爛々と光が灯っている。
やられたのならやり返す。しかもそれが、仲間を理不尽に傷つけたのならより一層。各自、微妙に違うだろうけどね。少なくとも、私はそういう心持ち。
リオは必ず取り戻すし、真白を傷つけたショルシエはボコボコにしてやる。絶対にだ。
「よし、魔法少女側の被害状況を改めて確認する。ハッキリ言おう、このままでは絶対に私達は勝てない。それはお前たちも分かっていることだと思う」
と、意気込むのは簡単だけど、そんなに甘くないのが現実問題ってやつね。番長の言う通り、今の私達では絶対に【ノーブル】に勝てない。
私はリオを失った事で能力的に大幅な減衰をしているし、高い火力を持つパッシオは未だ目を覚ましていない。真白の精神状態も今のままでは戦闘どころか日常生活に支障が出ている。
その中で、最も戦力的に痛手だったのが、千草だ。ケガでの戦線離脱が理由じゃない。ケガは治るから問題ないのよ。
最大の問題は、千草もとい『翠剣の魔法少女 フェイツェイ』の魔法具『翠嵐』が折られてしまったこと。
「特に千草。魔法具の破損が現役の魔法少女にとって何を意味しているか、分かっているな?」
「……一応は」
「分かっているならそれで良い。今はケガを治せ。細かい話はそれから決める」
「わかりました」
『魔法具』って言うのは、物凄く簡単に言うと魔力の結晶体だ。一定の実力を持った魔法少女がその魔力を自分に最も適した形に出力し、武装として扱うって感じね。
もうちょっと詳しく言うと、魔法を自由に操るのも練度がいる。これは当然だけど、その練度が高まれば当然魔法一つ一つに対する魔力精度が上がっていく。これも当然。
で、その魔力の精度とか総合的な魔力量とかがある程度まで行くと、変身時にも影響が出て来て、『魔法具』が現れるようになるって仕組みね。
『魔法具』って言う名の通り、私達にとって最初に出来る自分だけのとっておきの魔法ってところかしら?
そんな魔力の結晶でオーダーメイドの物がもし壊れたら、その修繕にはどのくらいの時間が掛かるのかはそこまで難しい話じゃない。
最低2年。最悪の場合、直らない。これが魔法具を破損させてしまった場合にかかる一般的な日数。
そりゃそうよね、自分が魔力を数年単位でコツコツと積み上げてようやくできた一点物の武器。それが壊れれば、もう一度魔力を貯めるところからやり直すことになる。
しかも、この間、魔法少女は大幅に弱体化する。人間の身体が、大怪我をした時に免疫能力が下がるって言われているのと同じように、魔法少女にとって魔法具の破損は大怪我だ。
殆どの魔力リソースが魔法具の修繕に回されてしまうため、この間の魔法少女は例え元々がAランクでもトップクラスの実力者だったとしても、Cランク以下のちょっと魔力を持った一般人レベルにまで落ちる。
結果として、魔法具が壊れた魔法少女は通例として現役引退を勧告される。
最低2年間戦えない魔法少女を、しかも元のように戦えるかもわからないのに今まで通りに置いておくことは出来ないというのは、プロスポーツの世界でもまぁまぁ見る話。
今回の千草がそれ。本来なら、この段階で引退勧告なんだろうけど、【ノーブル】と戦っている私達は少しでも戦力が欲しい。
もし、何か打開策があるのなら、探していくというのが協会としても、千草としても本音じゃないかな。
「真白に関しては、早急な解決策は正直見込めん。本人次第、そして私達のサポートも重要になる。無いとは思うが、心無い言葉を掛けたりした場合、減俸じゃすまさんから覚悟しろ」
「そうは言っても皆も心に余裕を持ってね。根の詰過ぎはダメ。とりあえず一週間は休養するように。身体が疲れていると、心も病みやすいから」
何かとショックの多い戦いだったのは確かで、真白も千草も、私達もまだ色々と混乱している。
光さんの言う通り、少しばかりの休養と考えをまとめる時間は欲しかった。




