道程
雛森さんこと、『千里眼の魔法少女 ヴェルタ―』が操る魔法はとてもシンプル。
情報を引き出す魔法。
これだけだ。これ以上もこれ以下も出来ない彼女だけが行使出来た『最強』の魔法の一つ。雛森さんはこの魔法一つで、世界を救った10人の魔法少女達を支え、S級魔獣の討伐や無力化に大きく貢献した、らしい。
これらはあまり表には出ていない話であって、当時の魔法少女達ですら知っているのはごく一部。魔法庁の高官ですら知らないという。
11人目の魔法少女らしい、なんて風の噂では民衆にも広まっているけど、そこまでで『千里眼の魔法少女』という魔法少女が一体どんな魔法を使って戦うのかは今の今まで私達も知らなかった。
そして、その魔法が先日のバハムートの戦いの中で使われた。その強力な能力は、私が嫌でも理解したつもり。
情報を引き出す魔法。それは文字通り、敵味方、地形、気象、個人から組織、ありとあらゆるこの世の中の情報を引き出す魔法。
アカシックレコード、なんて言葉は知ってるかしら?簡単に言うと、この世の中のありとあらゆる情報、過去も現在も未来の情報ですら集められたこの世界の記録と記憶のことなんだけど、雛森さんの魔法はここに接続して嘘偽りの無い真実だけを引き抜く。そう言う魔法だと表現するのが適切だと思う。
そんな魔法を一人の少女が持っていると分かったら、どうなるのかは想像するのに難しくない。
雛森さんを捕え、無理やりにでも魔法を行使させればどんな情報だって手に入る。これは世界中の国や権力者、犯罪組織が欲しがる夢のような魔法。
捕らえたところが世界を牛耳る覇者になれる。情報を制するとはそういうこと。だってもし本当にアカシックレコードに接続できるのなら、雛森さんはやる気になれば未来の出来事ですら先に知ることが出来るのだから。
勿論、デメリットがあるに決まってる。今回、雛森さんが入院しているのも、もう魔法を使えない身体になっているのも、この魔法が原因。
この魔法は人間の身体には不相応過ぎた。世界の集積知に魔力で強化されていたとしても、ただの人間がアクセスをすれば、脳に過剰な負担が掛かり過ぎる。
3体のS級魔獣をどうにかした時点で、雛森さんの身体は限界だった。もう一度、魔法を使えば命に係わる。
そんな身体だったのに、雛森さんはあの時、私達を助けるためだけに魔法を使った。あの時聞こえて来た咳のあと、口や耳、鼻から血を流して倒れたそうだ。
今も意識不明。番長がお見舞いに行っているらしくて、そろそろ合流する時間かな。
「済まない、遅くなった」
お、時間ピッタリに到着。流石は番長、その辺はこの中の誰よりもしっかりしてる。
「良いわ。容体はどう?」
「今は何とも」
「……そう。雛森さんには戻ってきたら特別ボーナスね。さぁ、始めましょう。俯いてばかりじゃ始まらないわ。せめて、顔を上げなさい」
パンパンと手を叩かれ、俯いていた面々も含め、光さんに注目する。今日集まったのは、ただ遊びに来たわけでは当然無い。
今回の大敗と呼べてしまうこの結果に対する大反省会、というのが今日集まった趣旨。現状を全員で共有し、反省点と改善点を洗い出す。
今の私達に何が出来て、これから何をすべきなのか、その話し合いがこれから行われる。
「さ、まずは街の被害を伝えるわ。ニュースを見てた子は分かるかも知れないけど、街自体も大きな損害を受けました。街の備蓄資材などを保管している倉庫街の1割が被害にあっているわ。市街地でも、【ノーブル】がカレジに仕掛けた時限性の魔法が発動して、一部が損害を受けています」
「時限性の魔法って言うのは、以前私が受けたようなタイプの魔法ですか?」
「そうよ。他者の意識を奪って、心身のコントロールを得る魔法技術。幸いにもこちらは私達もある程度の対策を講じていたから、この程度で済みました」
「もし、何の対策も無ければ俺が一体何をしでかしていたのか、考えるだけでも恐ろしいな」
真っ先に行われたのは、私達が守っているこの街そのものの損害。ニュースでも散々やっているけど、倉庫街を中心に手酷くやられてしまった。
今でもお店を再開出来なかったり、商品の在庫が無くなってしまって首が回らなくなってしまった人達が多くいるみたい。
その辺りの保証に関しては大人の仕事だけれど、この街の行政、魔法庁、そして魔法少女協会がそれぞれお金を出し合って補填するんだとか。
国と行政が6割、協会が4割って感じらしい。国が6割までなのに、協会が2割違いの4割まで出せるのは何というか、流石は諸星といった感じがする。
「ま、この辺りは大人の仕事。私達がどうにかするから、貴女達は自分の事に集中しましょう」
「今回の戦いで、得た物、失った物、それぞれあるだろうが、今も昔も私達魔法少女に俯いている暇はない。キツイ事を言ってしまうが、それだけ状況は緊迫し始めているというのが事実だ」
光さんと番長が、私達を見渡すように視線を向ける。私達全員、それぞれ怪我の有無から精神状態まで全員違うけれど、二人の言う通りなのは間違いない。
私達に後ろを向いている暇はない。私もリオを連れていかれて、真白が理不尽に傷つけられて、悔しくて情けなくて仕方ない。それで落ち込んでいるのは落ち込んでいるし、他の皆もそうだった。




