何処かでされてる何かの話
キィっと音を立てて、一人の男性が座っていた皮張りの椅子が沈み込む。その椅子、いやその部屋にある調度品は全て、素人が見ても一級品、高級品の数々であり、同時に嫌味を感じさせない全体的にシックで落ち着きのある物が揃っていた。
「――結果として、実験体を合成した身体ではバハムートの完全な再現は出来ていなかったようです。魔力面では十分だったようですが、肉体はやはり紛い物。3体を合成したことも脆さに繋がっていたようです」
「ふむ。持ち帰った肉体はどうなっている?」
「持ち帰られた肉体は再び分離したようで、クライス、オブセスの二人はこの自我をある程度取り戻している様子でした。ドグマの方は恐らく斬り落とされた頭部の構成を担っていたようで、蘇生は不可能でした」
その執務室、と呼ぶにふさわしい厳格な部屋の中では先ほど椅子に身体を沈めた壮年男性ともう一人、眼鏡をかけた長身の男性が書類を片手に業務報告のようなものを行っている。
その内容は、先日『魔法少女協会』が南東北にある街を襲ったバハムートに関する事柄であり、彼らがその関係者であることは、内容からも容易に推察することが出来る。
「バハムートのメモリーは?」
「2枚はクライス、オブセス、それぞれに。『竜腕』と『竜尾』が残っています。『竜頭』『竜翼』『竜脚』はどうやら協会の魔法少女を器に選んだようです。火属性の使い手だったそうですので、バハムートにとっても都合が良かったのでしょう」
「成る程。中々面白い事態になって来たじゃないか」
報告を聞いて、壮年の男性は笑みを浮かべる。歪にでも、悪意に満ちている訳でも無く、彼はあくまで優しく神父のような優しい微笑みだった。
彼なりに満足の行く結果だったのか、面白いという感想の通り、混迷した状況を楽しんでいるのか。
考えの読めないその表情が逆に恐ろしくも感じる。
「神の復活。様々なアプローチを考えていたが、やはり紛い物、混ぜ物の器では神に耐えられんか」
「総魔力の桁が違いますので。器に選ばれた少女もいつまでもつのか、個人的には疑問ですね」
「真っ当に考えれば、器ごと食い破られるのが妥当だろうな。何せ3枚もその身体に入れたのだ。すぐさま暴走しないだけ、評価するべきだ」
神、器、魔力。魔力はこの世界では昨今、当たり前のように聞く単語になったが、神と器という言葉は何を指しているのかは不明瞭だ。
字面通りに受け取るのであれば、神の持つ魔力を器に注いだ。そういうことだろう。
その器が神と呼ばれるモノの膨大な魔力を受け止め切れるのか、こぼしてしまうのか、負荷に耐え切れず割れてしまうのか。
これは器となった少女次第、ということになるのだろうか。
「しかし、ショルシエの勝手な行動には困ったモノです。良いのですか?アレ程勝手に動かれては少々手間とリスクが大きいのですが」
「構わんよ。むしろそういう契約なのだ。彼女と私のな。だが、少々彼女は目立ちたがり屋な一面が強過ぎる。私から研究に没頭するように良い含めておこう」
「了解致しました」
嘆息する眼鏡の男性はショルシエの横暴さに憂慮しているようだ。
恐らく、それにより手間をかけさせられているのだろう。どの組織においても、苦労人というのがいるものらしい。
少なくとも、彼はそういった分野を担当しているらしく、壮年の男性が労いながらこちらで何とかしておこうと提案をしていた。
「シャドウ。いや、器の状況はどうだ?」
「良好です。半妖精という代替えの効かない奇跡の産物ですが、順調に育っています。やはり魔力の許容量というのは人間と妖精では段違いのようですね」
改めて器という言葉が出て来て、それはシャドウを指しているようだ。
こちらにも同じように神の魔力をそそぐのであろうか。
そして、シャドウにはそれを受け止め切れるだけの保証がどうやらあるらしい。半妖精とは、一体なんなのだろうか。どうやら、それがキーパーソンのようだが。
「では、あとは我らが神が身を覚ますのを待つだけ、か」
「かの街の魔法少女に我々が発見された事はやはり痛手でした。魔力の収集に想定より時間がかかっております」
「仕方あるまい。重要なのは時間ではない、確実に遂行する事だ。そうして、我々は神の力を手に入れる事が出来る」
「悲願の成就は目の前です。ボス、もうしばらくお待ちを」
それで、彼らの話は終わる。私は朧げな意識の中で薄らとその話を聞けただけだ。
逃した子達は無事に福岡まで行けただろうか。南東北は戦いの中心地過ぎて助けを求めるにもガードが堅かった。
遠方にはなってしまったけど、福岡ならドンナもいる。何とかやり過ごせる筈。
「全く、あの狐のやんちゃさには手を焼く。まるで玩具をもらった子供だ。なぁ、そう思わないか?マギサ君?」
どうか、どうか間に合って欲しい。そうすれば、この状況も打開出来るはず。この話が『魔法少女協会』まで届けば、きっと……!!
「おっと失礼。今の君に心身の自由は無かったな。……さて、神にも届く魔力に器、それを操る術。全て揃った。後は神の目覚めを待つのみだ。必ずや、成し遂げようではないか」
そう願って私は執務机の上に置いてある、役職を示すプレートを睨み付ける。
そのプレートに書いてあるのは、本来の役割を考えるのであれば、絶対に書いてあってはならないもの。
「神より賜った力で、この世界を在るべき形に戻すのだ。人間が腐らせた、この世界をな」
『魔法庁長官』。
そう、ここは東京。魔法庁本部にある長官室だった。




